著者 : 奥田亜希子
正しく生きたい、その女、所持金2億円。相田愛奈は、正しいことがなにより強いと信じている。独特の正義感から人間関係をこじらせ現在は無職。そんな彼女の銀行口座には、幸運にも得た約2億円がある。にもかかわらず、節制した生活を続けている。その一方で、福祉団体等に多額の寄付をしていた。そんな愛奈のもとに、同じく無職だが、こちらは浪費家の従姉妹・忍が転がり込んできた。さらに、Amazonの“ほしい物リスト”で約3万円分の品を贈った相手から、お礼らしいお礼がないことに気づく。なぜ?どうして?数々の出来事が正しさセンサーに引っ掛かり、悶々とする愛奈の日々が始まった。
中学教師の葉奈子は中二の夏、ネットの掲示板で声をかけてきた男のもとに身を寄せた。そこは、母親から構われずに育った葉奈子が救いを求めて逃げ込んだ場所だった。15年前の夏の記憶と、担任する女子生徒の抱える秘密が重なったとき、葉奈子の中でひとつの真実が立ち上がる。その真実を共有したのは、心に傷を負ったまま生きる同僚の中年男性教師だったー。
翻訳家の志織は三十四歳。五年の交際を経て結婚した夫の誠太は、友人から「理想の旦那」と言われ、夫婦生活は安定した温かさに満ちていた。ただひとつ、二人の間に子どもがいないことをのぞいては。あるとき、志織は誠太のSNSに送られた衝撃的な投稿を見つける。“自分の人生に奥さんを利用しているんですね。こんなのは本当の愛じゃないです。”二週間後、夫は失踪した。残された手紙には「自分は志織にひどいことをした、裏切り者だ」と書かれていてー。心をかき乱す極上の恋愛小説。
愛衣は隠しごとの「匂い」を感じる。そのため人間関係が築きにくい。小中高大、そして30歳を過ぎてからの五つの年代を切りとり、その時々の友情の変化と当時の事件を絡めながら、著者の育った年代に即した女性の成長を描く連作短編。
頼れる助産師の「白野真澄」には、美しい妹・佳織がいる。仲の良い姉妹で、東京でモデルをしている佳織は真澄の誇りだったが、真澄にはその妹にも言えない秘密があった…。駆け出しイラストレーター、夫に合わせて生きてきた主婦、二人の男性の間で揺れる女子大生、繊細な小学四年生。同姓同名の「白野真澄」の五者五様のわだかまりと秘密を描く。この世界に同じ名前を持つ人はたくさんいるけれど、どれひとつとして同じ悩みはない。少し頑固で、生きることに不器用な人たちを優しい眼差しで掬いあげる傑作短編集。
恋人との別れ話を見ていてー幼馴染に頼まれた僕に訪れた出会い(「ポケット」加藤シゲアキ)。私の家に毎夜違う知らない「友達」がやってくる。ある時から、同じ人が何度も現れるようになり(「コンピレーション」住野よる)。加藤シゲアキ、阿川せんり、渡辺優、小嶋陽太郎、奥田亜希子、住野よるが夢の競演。誰だって「行きたくない」時がある。そんな所在なさにそっと寄り添う、一瞬のきらめきを切り取った書き下ろし短編集。
PC上で輝く星だけが、進むべき道を照らしてくれるー。離婚して実家に戻った恵美は、母の介護を頼んでいるホームヘルパー・依田の悪い噂を耳にする。細やかで明るい彼女を信頼していたが、見る目がなかったのだろうか。動揺する恵美に、母が転んで怪我をしたと依田から連絡が入り…。ネットのレビュー、ブログ、SNS。評価し、評価されながら生きる私たちの心を鮮やかに描き出す6編。
「家族か、他人か、互いに好きなほうを選ぼうか」姉と絶縁しシェアハウス暮らしのOL。愛する妻の親族に興味を持てない画家。未来を考えられないせいで離婚された男。突然曾祖母と同居することになった中学生。姉の忘れ形見とほんとうの母娘になりたい女教師。そして婚約破棄をして自暴自棄の女。何かが欠けた6人の男女は、家族と呼ぶには遠く他人と呼ぶには近すぎる存在に救われるーあなたの心を揺さぶる連作短編集。
唯一の理解者だった小学校の同級生・吉住君を想いながら、孤独を抱えて生きる26歳の早季子。他人に恋愛感情が持てず、刹那的な関係を繰り返していたある日、吉住君と自分と同じ癖を持つ宮内の存在を知り、会いたいと思うが、彼はアイドルのファン活動で忙しいという。彼と話すため、地方ライブに同行することにした早季子だったが…。奇妙で愛しい出会いの物語。第37回すばる文学賞受賞作。
ティーン誌の編集者の禄は読者からのお悩み相談ページを担当しているが、かつての投稿者との間にトラブルを抱えていた。一方、地方に暮らす中学生の郁美はその雑誌の愛読者。東京からの転校生が現れたことで、親友との関係が変わり始めてしまう。出会うはずのない二人の人生が交差する時、明かされる意外な真実とはー。
同じ屋根の下で暮らす女ともだち。ふたつきに一度だけ会う親子。単純なことばでは表せない“かぞく”。すばる文学賞作家が切り取る6つの関係性の行方はー。紡がれるひと言ひと言が心を揺さぶる、感涙必至の短編集。
小学5年生の時に出会った奇跡のような存在の少年・吉住を忘れられないまま大人になり、他者に恋愛感情を持てなくなった26歳の早季子。恋愛未経験で童貞、超がつくほどのオタクで、人生をアイドル・リリコに捧げる宮内。どうしようもない星たちを繋げるのは、片目を閉じる癖、お互いが抱える虚像。第37回すばる文学賞受賞作。