著者 : 宮本輝
ボタンのかけ違いでもう会わないと決めた良介と日出子。親友の内海から愛人が妊娠したという相談を受け、ゴルフの師と仰ぐ大垣老人からは思いがけない過去を打ち明けられる。亡き妻に似てきた娘、登校拒否の息子、そして別れた二人の思いは?人生における朝と夜、人間の幸福について問う。
昭和34年、中学生になったものの、あいかわらず病弱な伸仁の身を案じていた松坂熊吾だが、駐車場の管理人を続けながら、勝負の機会を窺っていた。ヨネの散骨、香根の死、雛鳩の伝染病、北への帰還事業、そして海老原の死。幾つもの別離が一家に押し寄せる。翌夏、伸仁は変声期に入り、熊吾は中古車販売店の開業をついに果たすがー。「生」への厳粛な祈りに満ちた感動の第六部。
彼女にも逃げられ、親からも勘当された無職の青年、坪木仁志は謹厳な金貸しの老人、佐伯平蔵の運転手として、丹後・久美浜に向かった。乏しい生活費から毎月数千円を三十二年に渡って佐伯に返済し続けた女性に会うためだった。そこで仁志は本物の森を作るという運動に参加することになるのだがー。若者の再起と生きることの本当の意味を、圧倒的な感動とともに紡ぎ出す傑作長編。
十年後も十光年先も、百年後も百光年先も、百万年後も百万光年先も、小さな水晶玉のなかにある。-与えられた謎の言葉を胸に秘め、仁志は洋食店のシェフとして、虎雄は焼き物の目利きとして、紗由里は染色の職人として、それぞれ階段を着実に登り始めた。懸命に生きる若者と彼らを厳しくも優しく導く大人たちの姿を描いて人生の真実を捉えた、涙なくしては読み得ない名作完結編。
結婚生活が破綻して落ち込む佐和子を励まそうと、父親は事業を始めるように勧める。そのとき、家業の創業者である祖父が彼女に遺した日記のことを思い出す。弁護士が永らく保管していた日記から、大戦間に渡欧して奮闘する日々が甦る。祖父の真意もわからないまま佐和子は生きる糧を求めてパリへ向かう。
佐和子の祖父と愛し合い、身ごもった女性と子供の消息は?同行の滝井の行動力もあって当時の関係者の重い口から生き証人の女性の存在を聞き出し、エジプト・アスワンへ。次第に姿を現していく諜報戦の真実と祖父の葛藤。その足跡をたどる旅の果てに佐和子が受け止めたものは。幸福の意味を問う傑作長編。
亡き父の借財を抱えた大学生、井領哲之。大阪にあるホテルでのアルバイトに勤しむ彼の部屋には、釘で柱に打ちつけられても生きている蜥蜴の「キン」がいるー。可憐な恋人とともに、人生を真摯に生きようとする哲之の憂鬱や苦悩、そして情熱を一年の移ろいのなかにえがく、青春文学の輝かしい収穫。
神戸・北野町にあるフランス料理店アヴィニョンに若い画家の高見雅道が訪ねてきた。夫の早すぎる死後店を守ってきた典子は、夫の療養中に買った雅道の風景画を個展のために貸すことにしたが、その絵の裏には夫の驚くべき手紙が隠されていた。経営者を続けるか悩んでいた典子の心は、雅道へと傾いていく。
シェフの加賀たちとともに老舗の看板を守るアヴィニョンを乗っ取ろうとする男女が現れた。雅道と秘かに逢瀬を重ねながらも、彼らの仕掛けた悪質な罠と対決する覚悟を決めた典子。年老いた義母や隣家のブラウン老人を支えつつ、地元の経験豊かな知恵者たちの手を携えた闘いが始まったー。
喫茶店に掛けてあった絵を盗み出す予備校生たち、アルバイトで西瓜を売る高校生、蝶の標本をコレクションする散髪屋ー。若さ故の熱気と闇に突き動かされながら、生きることの理由を求め続ける青年たち。永遠に変らぬ青春の美しさ、悲しさ、残酷さを、みごとな物語と透徹したまなざしで描く傑作短篇集。
大西洋に突き出したポルトガルのロカ岬から、18年ものあいだ結核の療養生活を送っていた天野志穂子のもとに一枚の絵葉書が舞い込んだ。一世を風靡したコーラスグループ「サモワール」のリーダー梶井克哉の書いた言葉が、諦念に縛られていた志穂子に奇蹟をもたらす。人間の生きる力の源泉を描いた力作長編。
志穂子は、親身になってくれたダテコや尾辻玄市のおかげで梶井克哉と会えたものの、絵葉書の宛名が間違っていたことを知ってしまう。しかし、人と交わる暮らしを始めたばかりの志穂子に運命のいたずらが授けた力は、思い屈するすべての人に真っ直ぐ生きる勇気を与え、自らを「恋」の奔流へと導いていく。
燎平は、新設大学の一期生として、テニス部の創立に参加する。炎天下でのコートづくり、部員同士の友情と敵意、勝利への貪婪な欲望と「王道」、そして夏子との運命的な出会いー。青春の光あふれる鮮やかさ、荒々しいほどの野心、そして戸惑いと切なさを、白球を追う若者たちの群像に描いた宮本輝の代表作。
退部を賭けたポンクと燎平の試合は、三時間四十分の死闘となった。勝ち進む者の誇りと孤独、コートから去って行く者の悲しみ。若さゆえのひたむきで無謀な賭けに運命を翻弄されながらも、自らの道を懸命に切り開いていこうとする男女たち。「青春」という一度だけの時間の崇高さと残酷さを描き切った永遠の名作。
十年前、留美子は見知らぬ少年から手紙を渡される。「十年後、地図の場所でお待ちしています。ぼくはその時、あなたに結婚を申し込むつもりです」。いったいなぜこんな身勝手なことを?東京、軽井沢、総社、北海道…。さまざまな出会いと別れ、運命の転変の中で、はたして約束は果たされるのか。
壊されたパテックの懐中時計の持ち主を探す桂二郎の前に、妖艶な中国女性が現われる。そしてもう一人、桂二郎を訪ねてきた若い女性は、昔別れた恋人の娘だった。一方、留美子は謎の手紙の主について、次第に手がかりを得ていくー。人は何を拠り所にして生きていくのかを問う、宮本文学の新しい傑作。
イタリアのアッシジで、42年前に自分を捨てた母・美雪に身分を隠して再会した順哉は、帰国後、喫茶店のウェイトレス千菜がビルから飛び降りるのに遭遇する。自分と父を捨てて家を出た美雪の事情がしだいに明らかになる一方で、死んだはずの千菜から手紙が届くようになるー。謎が謎を呼び、ミステリアスに物語は展開する。