著者 : 小山田浩子
豪雨災害に見舞われた地区にボランティアとして赴いた私がふと目にした、花の世話をする住人らしき女性。その周りが小島のように見えて、違う時間が流れているーさまざまな場所で出会う何気ない出来事をつぶさに描いた中短篇の他、広島カープと広島の人々の特別な関わりをテーマにした奇談連作も収録。いまもっとも期待される作家の現在を映し出す14篇。
大河が南北を隔てる巨大工場は、ひとつの街に匹敵する規模をもち、環境に順応した固有動物さえ生息する。ここで牛山佳子は書類廃棄に励み、佳子の兄は雑多な書類に赤字を施し、古笛青年は屋上緑化に相応しいコケを探す。しかし、精励するほどに謎はきざす。この仕事はなぜ必要なのか…。緻密に描き出される職場に、夢想のような日常が浮かぶ表題作ほか2作。新潮新人賞、織田作之助賞受賞。
ふきのとう。ヒヒ。彼岸花。どじょう。鶴。葦。おたまじゃくし。ままならない日々を生きる人間のすぐそばで、虫や草花や動物たちが織り成す、息をのむような不可思議な世界。暮らしの中にある輝きと不条理を鮮やかに捉え、風景が静かに決定的に姿を変える瞬間を克明に描き出す、15の物語。芥川賞作家、待望の初短篇集。
仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人たちも、何かがおかしいー。ごく平凡な日常の中に、ときおり顔を覗かせる異界。『工場』で話題を集めた著者による待望の第二作品集。芥川賞受賞作のほか「いたちなく」「ゆきの宿」を収録。
不可思議な工場での日々を三人の従業員がそれぞれに語る表題作(新潮新人賞受賞)のほか、熱帯魚飼育に没頭する大金持ちの息子とその若い妻を描く「ディスカス忌」、心身の失調の末に様々な虫を幻視する女性会社員の物語「いこぼれのむし」を収録。働くこと、生きることの不安と不条理を、とてつもなく奇妙な想像力で乗り越える全三篇。