著者 : 小嵐九八郎
一九八〇年代、バブル景気、冷戦の終結に向けて動く社会の中で、新左翼各派はうちつづく党派闘争(内ゲバ)で混迷を深めていった。先細りする組織の中で、中年となった“軍人”には“闘争の意味”とともにもう一つ悩みがあった。息子が“新新宗教オウムなんとか教”入信・出家するという。息子の奪回をくわだて、“軍人”は培ったゲバルト技術で立ち向かうー。
できる盗人の立身出世ストーリー。そこには「義」があった。遠江に生まれた虎太は母親・右に女手一つで育てられていた。ところが15歳のとき、家の近所で遊んでいたところを人攫いに遭ってしまう。同じ境涯の少年たちと西へ向かって連行されていく虎太。人攫いの男たちは京阪から来た盗賊のようだ。やがて盗賊の本拠にたどり着くと、命懸けの訓練が始まった。人買いに売られるのではなく、盗賊に育て上げるつもりらしい。虎太は母に鍛えられた勉学や身体能力によってめきめきと頭角を現していった…。
享保の改革のころ、15歳の男がどでかい罪と科を犯して大坂から京へ逃れていった。河原で乞食をしたのち、僧・弁空のもとで寺男になる。寺で画と俳諧に興味を持ち始めた男は、京を発ち江戸へと向かう決意をする。江戸では俳諧の師匠・宋阿に弟子入りし、宰鳥と名乗る。だが間もなくして宋阿が亡くなり、下総の結城へ。そこを拠点に奥州や北関東への旅を繰り返す。29歳で俳号を蕪村に改め、いよいよ画と句と書に力を注ぎこみ…。蕪村の内面の闇を解き明かす、長編歴史小説。
「倒幕」と「年貢半減」を目指す小島四郎は、江戸で「青雲隊」を結成。後に京に上って、薩摩藩の西郷吉之助(のちの隆盛)との面会で、江戸を撹乱するよう頼まれる。四郎はさっそく江戸に戻り、相楽総三と名乗って江戸周辺で強盗・放火を繰り返す。大成果を上げた総三は京に戻り、東征隊の先鋒隊に任じられ「赤報隊」と命名する。だが、東山道を進むうち、自隊が「偽官軍」と呼ばれているとの情報が…。
大示と真帆子の関係は新たな展開を見せる。そんな中、真帆子の父・河井雄之進から自らの軌跡をあかす手紙が次々と届く。七〇年代、革命党派の非合法活動家となった河井は激烈な党派闘争に身をおく。その中で大示の友人たちも命を失っていった。だが悲劇はそこにとどまることはなかった。深い闇に生きる魂たちの物語、戦慄の第五部。
新聞記者をやめ、新たに雑誌にかかわる大示が半生をふりかえる。少年期をへて、六〇年代、政治の季節に青春を迎えた大示のかたわらにいたのは盟友・河井だった。大示が思いをよせる田中早苗は、河井へひきよせられる。三人の運命が絡み合う中、政治の季節最後のクライマックス=東大・安田砦の陥落が迫る。
堀口剛蔵の弟、参蔵は生来の嘘つき、それも他人のために虚言をはく、という性癖を持てあましながら、漂うように戦後を生きてきた。参蔵は剛蔵の妻・美那に思いをよせる。美那は自死した剛蔵を許さない気丈な女だが、やがて自らも悲劇的な末路をえらぶ。悲しみはどこまで続くのか。
新聞記者・堀口大示は長男が精神を病んでいることに心を痛めつつ、長く会わない友人の運命を思いやる。友人・河井はある過激派の非合法活動家として潜行しているらしい。そんな中、大示はやはり新聞記者であった父の日記をひもとく…。時代の波にのまれ、時代とたたかった新潟・長岡出身の一族とその友人たちの、数奇な運命の群像を描く巨篇。
ウガンダで河馬に噛まれたことから、「河馬の勇士」と呼ばれる元革命党派の若者。彼と作家である「僕」との交流をたどることで、暴力にみちた時代を描く。若者に希望はあるのか。浅間山荘銃撃戦とリンチ殺人という、戦後日本の精神史に深い傷を残した悲痛で惨たらしい事件を、文学の仕事として受けとめた連作集。
眠れるままの女-催眠療法を受けた美貌の人妻の本当の狙いは?霊を喰う女-新興宗教の教祖に祭り上げられた霊感少女の辿る先には?;晒をまく女-子供が欲しい!夫をつなぎとめるために女がとった恐ろしい選択。木曜日の女-モテナイ女と人は言うけれど、私にだって男は抱ける。水色の嘘っこ-雪深い村で少年は女体のぬくもりに抱かれたのだが…。心にひそむ“悪”と“哀しみ”を描く著者会心の平成オンナ地獄篇。
死刑確定-その日からみんなの心が一つに!絞首台の日がすぐそこに。初めて人を愛することを知った若き死刑囚は獄中養母と秘密通信。教誨師、看守、実母も国家に奪われる命の意味を噛みしめる。奇跡のヒューマン小説誕生。
愛すること、信ずることって何だ。ぎりぎりの死を見つめる“心”の作品集。隠れキリシタン、風葬の島、一妻多夫制、様々な精神のあり方を吉川英治新人賞作家が鋭く抉る。
政治の季節の影を引きずり、精神を病んでしまった彼女。その心を開かせたのは、ちょっぴりどじな彼の純情だった…。軽やかな語り、ユニークな青春像。気鋭作家が描く、注目の書き下ろしロマン。