著者 : 小林信彦
大きな電気工場から大金を盗み出した紳士盗賊は、捕まった後も金のありかを白状しなかった。一方、私は同居人の松村から、ちょっと変わった二銭銅貨の出どころについて執拗に問いただされる…。(「二銭銅貨」江戸川乱歩)。乱歩、横溝正史、夢野久作らが書き継いだ合作、妖婦蘭子の魔性の生涯を描く「江川蘭子」ほか、シェイクスピア、太宰治など「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズで紹介された古今東西の名作を厳選収録。
かつてわが国有数の盛り場でありながら、震災と戦災により、その輝きを失った日本橋。その地に創業享保八年、昭和まで九代続いた老舗菓子店「立花屋」はあった。街の歴史と家族の営為を書きとめ、その栄華と没落を描ききった胸うつ名作。『東京少年』『流される』とともに自伝的三部作をなす長編小説。
漱石の代表作『坊っちゃん』の登場人物、うらなり。個性豊かな教師たちのなかにあって、マドンナへの思いを残しながら、新任地へ赴いた彼から『坊っちゃん』の世界をみるとどうなるか。さらに、その後の彼の人生とは。明治、大正、昭和を生きたひとりの知識人の肖像を、卓抜な着想と滋味あふれる文章で描き出す。第54回菊池寛賞受賞!小林信彦が描く『坊っちゃん』の後日談。
かつてわが国有数の盛り場でありながら、震災と戦災により、その輝きを失った日本橋。その地に創業享保八年、江戸、明治、大正、昭和と九代続いた老舗和菓子店「立花屋」。街の歴史のなかに家族の営為を書きとめた、胸うつ「栄華と没落の叙事詩」。
男は39歳、辛口で知られるコラムニスト。離婚歴あり。東京・山の手に、今は独り住まい。内省的な性格。性的な悩みを抱えている。そんな男の前にあらわれた女は27歳、古めかしい言葉をさらりと使う。六本木や西麻布の喧噪が苦手。新潟の出身だというが、その挙動はいたって不可解…。かくて、瀕死の巨大都市「東京」の光と影とに彩られた、物哀しくもユーモラスな恋愛譚が始まる。
「ミスターJ」は、放送作家の私が仲間と創りあげた架空のコラムニスト。この正体不明の男が評判を呼んだとき、私は実在の男にその役割を振りあてた。彼がこれほどの「怪物」に育つとは思いもよらずに。深夜放送で若者の苛立ちや鬱屈を代弁してカルト的人気をえた彼は、毒舌で大衆を扇動しつつ、攻撃の矛先を意外な方向にむけ始める…。情報化社会にひそむ恐怖を描く現代の都市伝説。
離婚歴のある39歳の男が、27歳の不思議な女と出会った。翻弄される濃密な時間。謎が音も立てずに近づいてくる。東京の暗部を照らしだす、スリリングで透明な恋愛小説。
30年前の東京に迷いこんだぼくは、好きになった女の子のために、1959年に留まることを選んだ。だが、その7年後の東京で、父親がとんでもない窮地におちいっていることを知って、1966年夏に再びタイムトリップした。ビートルズ来日公演の舞台裏で父親がかかわる“もうひとつの事件”とは。いまや伝説ともなったビートルズ来日の異様な熱気と興奮に包まれた“あの夏”の冒険物語。
その冬、ぼくは30年前の東京に迷いこんでしまった。隈田川沿いの古い鉄筋アパートの部屋で淡いまどろみから目覚めたとき、窓の外の高速道路は消え、柱のカレンダーには1959と記されていた。おずおずと一歩を踏みだすぼくの前に、次々と現われる見知らぬTOKYO、どこかなつかしい街と人びと…。過去と現在の衝突が生む不思議な時空を旅する青年の〈愛と冒険のファンタジー〉。
あたしの名前は大沢ルミ。学校からの帰り道に、変な二人組に誘拐されそうになったの。何とか逃げ出したんだけど、その次の日、ヒゲゴジラことうちのパパが中華街で連れ去られちゃって…。あたしたち一家を狙う秘密組織って一体何?オヨヨ大統領って何者なの?ギャグ、パロディ、風刺ー大人も子供も楽しめる傑作コメディ。〈オヨヨ大統領シリーズ〉の第1作。
浅野はなぜ吉良に切りつけたのか?〈松ノ廊下の刃傷〉も、発端からして摩訶不思議。「君父の讐はともに天をいただかず」とはいうけれど、〈討入り〉だって〈虐殺またはスラップスティック〉。伝説と虚構の厚化粧を落としてみれば、なんともグロテスクな赤穂浪士事件。両家をめぐる人びとが、おかしくも愚かしく燃えた時代は元禄。滑稽舞台の幕が開き、鳴るはパンクな陣太鼓。
街も人も変わりつづける東京から、逃れるように渡ってきた南の島-。そこは政情の不安に揺れていた。秘密警察の暗躍、ゲリラの跳梁、そしてうさん臭い日本人の来島…。一触即発の危機的情況のなかで外部との連絡も断たれ、「理想の女性」と2人だけの奇妙で純粋な愛の時が。だが…。太平洋に浮かぶ小国を舞台に、笑いとサスペンスいっぱいに繰りひろげる〈陰謀と熱愛と冒険〉の物語。
朝倉利奈は短大卒、失業中、1Kのおんぼろアパート住まいーごくフツーの女の子に、ある日、突然、舞い込んできた夢のような話。その仕事とは、ニューヨークに住んで、ミュージカル、映画などのショウビジネスの情報を日本に送るというもの。信用しても大丈夫かな?でも本当にニューヨークにいけるなら…。20歳の女の子の〈冒険〉を通して、現代の表層と深層を軽やかに描く長編。
大阪西成の極道・的場組組長の一人息子的場浩。彼は銀行に就職し、生れながらの性格の良さ、整った容貌で、女性にももて、営業の仕事もうまくこなしていた。そんな順風満帆の浩に一大事件が起こった。組長の父親が引退、組を継ぐはめになったのだ。銀行員から極道に。-人生の表街道を歩いてきた浩が、裏街道にスリップしたとき…。表題作をはじめ4編を収録するオリジナル文庫。
広島カープの強さの源は〈モミジマンジュウ〉で、〈ヤキュウ〉のルーツは柳生一族にあった!自称“日本通”アメリカ人W・C・フラナガンの誤解とコジツケの処女作「素晴らしい日本野球」。そして、ソ連に占領された戦後日本の姿を描く「サモワール・メモワール」など、微妙な違和感を、大胆なフィクションをテコに極限まで拡大して笑いのめす異常発生作品群10編。