著者 : 小池昌代
幾千年の時を超えて、あなたと恋をしている奇跡。 生き死にの極限に迫る、著者渾身の恋愛小説。 ひと月前に兄を亡くして天涯孤独の身となったわか子は、週に三日、空き家管理の仕事をすることになった。趣味の和歌を思い浮かべながら、何かが死んでいるような腐敗臭のする家で掃除をしていると、「なびかじな……」という藤原定家の和歌がきっかけとなって不意に景色が反転し、気を失ってしまう。目が覚めると、空き家の持ち主の河原さんと見たことのない青年がわか子を心配そうに見下ろしていた。それは時間のなかを旅してきたような、不思議な感覚でーー。 雲=クラウド=記憶の保存庫 若さを失うことは、少しも寂しいことではないのーー 過去の恋を思い出しながら、わか子は『源氏物語』の朝顔の君に自身を重ねてみる。 前世か先祖か幻か、わか子のなかに眠っていた女たちの記憶が動き出す。 装画:栗田有佳 装幀:大久保伸子 1.Cloud on the 空き家 2.うどの貴人 3.もの言う馬 4.魂ぎれ
殻、空、虚、骸…あれは都市の、この世の、崩壊の音。富士が裂けた。電線のカラスが道にボトボト落下した。雨みたいにばらばらと人の死が降った。生き残った者は、ツルツルの肌を持つあのひとたちに奉仕した。パンデミック後の光景、時の層を描く小説7篇。
波の音を聞くと、遠い土地に流れ着いた流木のような気分になるー。海辺のセカンドハウスに集まった地方テレビのプロデューサー夫婦と友人二人。五十代の男女四人は浜辺に落ちた海藻を拾い、庭に実る猿の頭ほどの夏みかんを頬ばり、ワインを飲んで、心地よい時間を過ごす。翌朝、四人の関係は思わぬ「決壊」を迎える(川端康成賞受賞・表題作)。日常にたゆたうエロスを描く三編。
「その日も、呼び鈴は、いつにもまして、権力的に鳴った。その瞬間、わたしは神経を逆なでされ、理由もなく押したひとに反感を抱いた」(「隣人鍋」)。日常と非日常との、現実と虚構との、わたしとあなたとの間の一筋の裂け目に、ある時はていねいに、ある時は深くえぐるような視線をそそぐ。「島と鳥と女」「青いインク」「げんじつ荘」「風のリボン」など、15の短篇を収録。
20年連れ添った夫婦とそれぞれの友人。50代の男女4人が海辺のセカンドハウスに集まってくる。海藻を拾ったり、夏みかんを齧ったり、あどけないような時間のなか、倦怠と淡い官能が交差して、やがて「決壊」の朝がやってくる-。川端賞受賞作「タタド」、海辺で夫を待つ女と、風、砂、水、光による侵食を描く「波を待って」、同級生夫婦の家での奇妙な住みこみの仕事を描く「45文字」。全3篇収録の傑作短篇集。川端康成文学賞受賞。