著者 : 山口絵夢
幻ではない。目の前にいるのは、本当にジオだわ!酔っぱらいに襲われたイシーを助けてくれたのは、たしかにあのジオージョバンニ・ハミルトンだった。子供のころ、イシーの母が家政婦をしていた公爵家の御曹司だ。高貴でありながら、不良っぽい陰のある彼はイシーを夢中にさせたが、17歳の誕生日の夜、幼い恋心は粉々に打ち砕かれた。君の純潔など重たいだけだと、冷たく拒まれてしまったのだ。再会に戸惑う彼女を、彼は10年前よりセクシーになった瞳で見つめた。「大人になったな、イシー。そろそろ仲直りしないか?」そう言うと、彼は口もきけずに立ちすくむイシーの唇をふさいだ。
目覚めたサマンサは、そばに座って手を握り、穏やかに語りかけてくる男性を見て、妙に安心感を覚えた。ダークブラウンの髪をしたハンサムな人。でも、いったい彼は誰?ここはどこなの?私は…?彼女は事故に遭い、記憶を失っていたのだ。やがて病室に医師が現れ、男性は彼女の夫ギャリックで、おなかの赤ん坊も無事だと告げた。この魅力的な男性が夫で、彼の子供が私のおなかにいる…。サマンサの胸は誇らしさでいっぱいになった。だが真実は複雑で、夫の限りない優しさには切ない過去が隠されていた!
アマルフィ海岸で突進してきた高級車にはねられそうになり、サブリナは崖から落ちて脚に怪我を負ってしまう。車を運転していたのは、イタリア公爵マルコ・カルヴェッティ。医師でもあるという彼は、歩くのもままならないサブリナを気遣い、怪我がよくなるまで自分の別荘に泊まるよう告げた。マルコの魅力と唐突な招待に戸惑うサブリナだったが、豪奢な屋敷に足を踏み入れると、奇妙なことに気づいた。別荘の使用人を始め、会う人がみな揃いも揃って、まるで幽霊でも見たかのように驚いた顔で彼女を見るのだ。サブリナがマルコの亡き妻に生き写しであることなど、彼女は知る由もない。ましてや、これがつらい恋の始まりだとは。