著者 : 山崎光夫
東大医学部を卒業後、父の診療所を手伝う森林太郎(鷗外)。それぞれの事情を抱えた患者たちの生と死に立ち会いながら、医療のあるべき姿を模索する。“青年医”の人間的成長を描く連作集。
橘井堂医院には今日も子細ありげな患者が訪れる。東大医学部を卒業後、父の診療所を手伝う森林太郎。みずからの進路について煩悶しつつも、市井の一医者である父に「理想の生」のあり方を見出してゆく。“青年医”の人間的成長を描く連作短篇集。
第一回ノーベル賞を受賞するはずだった男、北里柴三郎。その波瀾に満ちた生涯は、医道を志した時から始まった。「肥後もっこす」そのままに、医学に情熱を傾ける柴三郎は、渡独後、「細菌学の祖」コッホのもと、破傷風菌の純粋倍養と血清療法の確立に成功する。日本が生んだ世界的医学者の生涯を活写した伝記小説。
帰国した柴三郎は、福沢諭吉の支援を得て、伝染病研究所の設立を果たす。そこへ香港でペストが大流行との報が入り、現地へ。調査団からも感染者が出る過酷な状況下で、柴三郎はペスト菌を発見する。一方、東大閥との争いが激化。政治の思惑にも巻き込まれ、柴三郎は伝染病研究所を失うことになるがー。
高貴中の高貴薬といわれるのが、「紫雪」である。まさに秘薬であった。医薬の研究者なら一度は目にして、できれば口に含んでみたいと熱望する名薬である。口中に投じれば淡雪のように融けるという。そこから、「雪」の字が当てられていた。用いる生薬類も入手困難のうえに高額で、製法に高度な技術を要するので、当時、製剤は事実上、不可能だった。中国から輸入され、唯一、正倉院に所蔵されているだけである。奥医師ですら現物を見た者はいない。幻の薬である。その幻の薬を家康は欲したのではないか。医典籍を渉猟し、みずからも製剤するまでに医薬に長けた家康だからこそ、正倉院に幻の薬を発見して入手を思いたったといえる。家康は単なる好奇心だけで「紫雪」を探したのだろうか。
迷宮入りもやむなしと思われた事件が幾度、彼の手で解決されただろうか。3000体もの変死を扱った空前絶後の検死官・芹沢常行。鍛えられた勘と技術は「自殺」を「他殺」に変え、意外な真犯人を暴き出す。人呼んで「逆転検死官」。ワトソン役の作家・山崎光夫がその奥義に迫り、難事件の真相解明に挑んだ。
突然もちあがった抗生物質博物館設立プラン。展示の目玉にすべく、わが国初のペニシリン菌株を追い求める旅が始まった。忍びよる妨害の手、迫り来る危難。一体なぜ。菌株に何かの因縁があるとでもいうのだろうか。五十年を経た今、医学界をわき立たせ、同時に震えあがらせるペニシリンの秘密とは何か。
読むほどに心やすらぐ、温泉小説。恋わずらいもストレスも岩風呂、砂風呂、露天風呂お湯につかればどこへやら彼方に広がる星空にあなたとふたりの願いをかけて道後、城崎、湯西川…。湯盗り博士がご案内。
細胞手術という世界初の手法で執刀された肝臓移植手術の経過報告に、永田町は耳をそばだてていた。肝機能障害を噂される首相の緊急入院。全閣僚の寿命を1ケ月単位で予測したヒポテーブルなる怪文書。先端医学情報が国政を揺さぶった6ケ月を描く、驚異の医学サスペンス
「概ね健康」と公式発表されているVIPの遊説先に何故医師団が随行するのか-胸中にくすぶる疑念が次第に膨れあがってゆく。「会合」の真の目的は何なのか…。(レッドライン・カルテ)。花札一枚を看護婦に差出して藤森医師に取次ぎを頼んだ過去からの客人。男は何の礼を言いに現れたのか…。(第二外科時代の余罪)。八ケ岳の避難小屋で生死の境をさまよう登山者。猛吹雪のなか、わずかな材料で手術に踏み切れるのか…。(八ケ岳モルゲンロート)。新しいアングルから描く医のサスペンス集。