著者 : 山本音也
令和四(二〇二二)年、イタリアのフィレンツェで“信長の遺書”なる古い紙束が見つかる。それは信長の近習の書記・太田牛一によって密かに編まれた『信長公記』、幻の「完本正篇」だったー。時を遡ること四四〇年以上前の天正七(一五七九)年、島原半島にイタリア人宣教師のアレシャンドロ・ヴァリニャーノが上陸する。後に信長に謁見することとなったその大男は、ルネサンス期にイタリア半島を駈け巡った驍将チェーザレ・ボルジアのことや、マキアヴェリによって書かれた『君主論』の話を、信長の求めるままに侍講した。そうして、天下を統べるはずだった男の好奇の思いは、牛一の筆によって漏れなく記されていく。
天正八年、高野山大門炎上。火をつけたのはノブナガ配下の「黒母衣衆」だった。高野客僧・木食応其は、比叡山の焼き討ちを想起させる事態を前に、密教秘術を使いこなす修験者のナビキらに戦の準備を命じる。さらにノブナガの重臣・ミツヒデが主君への不信を募らせていることを知り…。
新選組元隊士・沢忠輔の長屋に、新選組最後の隊長・相馬主計が割腹自殺したという報が届けられる。遺言は夏帯に墨で書かれた「一ツ」。その一語だけだったー。相馬と沢、そして同じく隊士だった安富才助は、箱館五稜郭の戦いで土方歳三の最期を看取った。この激戦では、相馬と安富もそれぞれ腕と指を失ったものの、彼らは明治の世へと生き残る。流刑での島暮らしの中、思わぬ邂逅と避けがたい確執を経た相馬と安富。やがて彼らの人生は、「御一新」の荒波に翻弄されていくー。人の生き様、心の痛みを精緻に描ききった傑作時代長編。第10回舟橋聖一文学賞受賞作。
新選組最後の隊長・相馬主計と元隊士・安富才助。箱館で土方歳三の最期を看取ったふたりは、明治の世へと生き残った。流刑での島暮らしの中、思わぬ邂逅と確執を経たふたりの人生は「御一新」の荒波に翻弄されていく。そして、物語は痛切のラストへー
昭和三十年七月。夏休みのある朝、小学四年生の広之は大阪から夜逃げしてきた家の子・勝治と出会った。無邪気な少年同士の友情は、親たちの抱える複雑な情と事情に流されて、ひりひりとした痛みを帯びていく。ひと夏の体験とかつて荒くれ者だった父が酔って語る“魂の話”は、広之の心に何を刻むのかー戦争の傷跡残る和歌山を舞台に、ふたりの少年の出会いと友情、そして別れを軸に、大人たちの人情の機微と愛情を情感こめて綴った、ふたつの家族の物語。