著者 : 山村正夫
江戸川乱歩はミステリーを「犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐蕨に解かれて行く径路の面白さを主眼とする文学」と定義した。これはまさに相手の駒の動きを予測し、理詰めで解き明かす将棋の勝負と類似している。事実、推理作家には将棋好きが少なくなく、題材にした作品も数多い。本書は文壇の実力派たちによる白熱の名人戦九局を収めた傑作アンソロジー!
江戸川乱歩から今野敏まで。日本推理作家協会、歴代理事長14人の傑作短編を収録。日本中の推理小説ファンを興奮の渦に巻き込む著者たちに連綿と受け継がれる技に括目せよ。(あとがき/山前譲)
同居の老人の奇行に悩まされ追い詰められた主婦が、一線を越えた末に信じがたい事実を知ることになる(「厭な老人」)。静かな部屋で時を告げる古い鳩啼時計には、遠く離れた恋人との悲劇の結末が隠されていた(「鳩啼時計」)など、歴史ある日本推理作家協会賞を受賞し、ミステリー界が誇る作家六名による、幻想と怪奇に彩られた物語を収録した珠玉作短編集シリーズ第五弾。
米軍が沖縄に大艦船を集結させ上陸を開始。満身創痍の連合艦隊が乾坤一擲の反攻を、戦艦大和を囮として計画。主力は米潜水艦が撃沈したはずの超空母「信濃」。艦上にはミッドウェー以降の海戦で戦死者扱いのベテラン操縦士たちの護国軍神隊が搭乗する「紫電改」。手に汗握る感動のシミュレーション架空戦史。
大和沖縄出撃に伴い空前絶後の隠密作戦が準備されていた。昭和二十年四月二日、知覧。陸軍第六航空軍楠本琢郎中尉は集団司令部への呼び出しを受けた。そこで聞かされた作戦は正に楠本の度肝を抜くものだった-楠本率いる空魔遊撃隊に、日系米兵になりすまし、拿捕したグラマンF6Fヘルキャットで米旗艦バンカーヒルに乗り込み、ミッチャー中将を人質にとって乗っ取れというのだ。そして大和が沖縄に着くまで、敵の反撃を阻止する-誰も知らなかったドラマがいま歴史の裏で幕を開く。注目のシミュレーション。
警視庁捜査一課の警部補・岩下は、殺人事件が起こるたび、天下一品の鮨を出す行きつけの店『鮨泉』を訪れる。主の板前・北園の、名探偵よろしく冴えわたる、切れ味鋭い包丁推理を聞くためだ。グルメな刑事と粋な板前名コンビが活躍する本格グルメ・ミステリー。
長野県の諏訪に古代より伝わる秘密宗教結社“ミシャグジ教団”の信者たちが、五十年に一度の大祭に結集し、十代の美少女を生けにえにする「闇の大祭」が近づいているという。そんな折、諏訪出身のレストランの主が一人娘を誘拐されてしまう。主は名探偵・滝連太郎に救出を依頼したが、殺人事件に発展した。
府中の古刹・真光山三界寺でバラバラ死体が発見された。右手には、酒呑童子伝説にまつわる埋蔵金のありかを示す「鬼駒」と「鬼殺し」という奇怪な棋譜が握られていた。被害者は坂田の公時の子孫を自称し、やがて大江山で第二の殺人が発生する。丹後半島に奇怪な怨念絵図が浮かぶ。猟奇殺人の主犯は“鬼”か。
おれの名は佐分利健。妾腹ながら服部半蔵の18代目の末裔だ。伊賀の里は油日岳の隠形谷から東京に来ていた忍法の師匠玄爺の、最愛の若妻が何者かに拉致された事件を追っていたおれの前に、インド魔術を思わせる全裸美女の空中浮遊死体が…。
「ミシャグジ教団」-長野県の諏訪地方に古来より存在する秘密宗教結社。その信者が50年に1度結集し10代前半の美少女を生贄にする「闇の大祭」が近づいているという。一人娘を誘拐されたフランス料理店オーナーは「湯殿山麓呪い村」事件の解決で名高い滝連太郎に捜査を依頼した!書下ろし伝奇本格推理。
滝連太郎は、教授の紹介で、映画製作にからんだ楊貴妃ゆかりの地を訪ねるツアーに講師として参加することになった。依頼者は、楊貴妃の末裔と称する美容総合センター社長の唐渡美帆だった。翌日、滝は武見香代子を誘い、デパートで開催されている「泉涌寺秘宝展」に出かけた。展示されている楊貴妃観音を見るつもりだったが、そこで警視庁の大曽根警部に声をかけられた。彼もある殺人事件との関連で捜査に来ていたのだ。数日後、捜査本部に楊貴妃を詠った白居易の「長恨歌」が送られてくる…。楊貴妃渡来伝説に材をとった書下し長編伝奇ミステリー。
「鬼だ!鬼の仕業としか考えられん」-府中の古刹、真光山三界寺で発見されたバラバラ死体。その右手には、酒呑童子伝説にまつわる埋蔵金のありかを示す「鬼駒」と「鬼殺し」という棋譜が握られていた。被害者は坂田公時の子孫を自称し、さらに大江山で第2の殺人が起こり、怨念絵図が浮かびあがる。
夭折した若者の死を悼む奇妙な霊前結婚の挙行される斎場-。そこに集まった三人の男女に真っ黒に塗りつぶした人型埴輪とテープの声が送られて来た。「約定を果してもらうときがやってきた。折鶴様の死に殉じるときが。三つ首塚にあやかれ…」。発信人は師京行人、死刑執行人の変名だ。そして、第一の犠牲者、銀座のバー『ラビリンス』のマダムが自室風呂場で首を吊られ、第二、第三と区行は続く。一方、ある青年が病院の一室でエイズのため死に瀕している。彼の死を目前にした懸念と、信州小諸在仙石家にまつわるおどろおどろしい約定の交差する点に浮かび上がる犯人は誰か?
樋口には強姦の前科があった。実刑判決を受けて1年前に出所したばかりだった。それ以外にも何人の女を暴力でものにしたか知れないが、訴えられたことはまるでなかった。すべて女の泣き寝入りだった。出所後はさすがになりを潜めていたものの、一度覚えた味は忘れられなかった…。夏の軽井沢の山荘を舞台に、頭をもたげた“悪い虫”がもとで恐るべき殺人事件に遭遇した男を描く表題作など、二転、三転する巧みな構成で読者を魅了する著者会心の傑作推理集。
青山の喫茶店『オルフェ』に入った探偵作家・雨宮鏡介は、店内の様子がいつもと違うのに気がついた。客の目がまったくまばたきをしないし、唇も動かしていないのに話声が聞えてくるではないか-。恐怖のあまり店を飛び出し、自宅に辿りついた鏡介の前に、昨年、A湖畔で死んだ恋人の香西育江が姿を現わし、思いもよらぬことを告げる。死者の国・霊界に踏みこんだ男の異常な体験と不可解な殺人事件を描く、奇想天外な長編ミステリー。
そのソァー・ベッドに、パジャマ姿の土屋が、なぜか体を海老のように折りまげ、窮屈な姿勢で横向きに横たわっていた。右手は喉にあてがったままだった。両眼はカッと見開き、苦悶の表情が凄まじい。唇の端にはどす黒い血がこびりついていた。「大変だ!死んでる」(「苦いバレンタイン・デー」より)。推理作家志望のOL遥子の活躍が始まった。