著者 : 山田詠美
たとえ、自分が生と死の境に立っていようとも、人は恋をする。なぜなら…。傷を傷というふうにも表せない男女が魅かれあう姿を通して、人が人を求める気持ち、言葉にできない寂しさを描いた五篇を収録。人を愛することで初めて生ずる恐怖、“聖なる残酷”に彩られた、最高に贅沢な愛と死のシミュレーション。
ペイ・デイ、給料日。それは、何があろうと、ほんのちょっとだけ、みんなが幸せになれる日-。双子の兄と妹は高校生。ちょっと不器用、でも誠実に生きている二人に訪れる、新しい出会い。別れ。恋。家族の問題。そして、大切な人の死…。ゆったりと美しいアメリカ南部を舞台に、様々な生が織り成されていく、堂々たる長編小説。
主人公は、ヤスミン。黒い肌の美しき野獣。人間の動物園、マンハッタンに棲息中。あらゆる本能を手下にして幸福をむさぼる彼女は、言葉よりも、愛の理論よりも、とりこになった五感のせつなさを信じている。物語るのは、私。かねてヤスミンとは、一喜一憂を共にしてきた。なにせ彼女の中を巡り流れる「無垢」に、棲みついている私だから…。小説の奔流、1000枚の至福。泉鏡花賞。
知性とセックスは両立するのか?ブンタイって一体何なんだろう?なぜ女は「いく」「死ぬ」なんて口走るのか?奔放きわまる文章と、繊細緻密な思考によって日本語と日本ブンガクの現状を笑いのめす。はたして小説は肉体の快楽にどこまで迫れるか。深遠かつ軽妙、そして抱腹絶倒のクリティーク小説集。
メロンの温室、煙草の畑、広がるれんげ草の群れ。香り高い茶畑、墓場に向かう葬列、立ち並ぶ霜柱など。学校までの道のりに私が見た自然も人間もあまりにも印象的であった。心を痛めることも、喜びをわかち合あことも、予期しない時に体験してしまうのを、私はその頃知った。永遠の少女詠美の愛のグラフィティ。
人を愛した記憶はゴミのようには捨てられない。黒人の男「リック」を愛した「ココ」。愛が真実だったとしたら、なぜ二人は傷つき別れなければならなかったのか。男、女、ゲイ、黒人、白人ー、ニューヨークに住むさまざまな人々の織りなす愛憎の形を、言葉を尽くして描く著者渾身の長篇。女流文学賞受賞。
私は両耳をつかまれて、高々と持ち上げられた可哀想なうさぎー。理不尽ないじめに苦しむ少女に兆す暗い思いを豊かな筆緻で描いた表題作のほか、子守歌に恐怖と孤独を覚える少女を見つめた佳篇「こぎつねこん」を収録。平林たい子賞受賞の話題作。
“作家になるべくしてなった”文学界の風雲児が、初めてその過去を語る。幼時の記憶、恋愛、夜の世界での体験から直木賞受賞に至るまで-本音と虚構とが見事に溶けあい、その多彩な魅力が集約された長編小説。
ピアニスト、リロイ・ジョーンズ。彼の指には才能がある。私はそれを知っていたし、それがこわかったのだ。2年前に捨てたあの男、私の奴隷であった男のために今、愛と快楽の奴隷になろうとするルイ子。リロイの奏でるジャズ・ミュージックにのせて描く、愛と復讐の物語。
ー優しさに込められた惨酷、惨酷に秘められた哀しみー少女から女へと華麗な変身をとげる美しくも多感な蝶たちの青春。好奇心ではなく欲望を、少年ではなく男を愛することで、美しい女友達の枷から逃れようとする心の道筋を、詩的緊張を込めた文体で描く。第96回芥川賞候補作。