著者 : 山野辺太郎
リアルにファンタジーが溶け出し、新たな世界へと導く山野辺太郎の真骨頂! やわらかい言葉と適度なペーソスで、作者は奇想を真実に変える。「恐竜時代」とは、人を信じるための胸のくぼみに積み重ねられた、記憶の帯だ。私たちの心の地層の底にもそれは眠っていて、あなたに掘り起こされる日を静かに待っている。 ーー堀江敏幸 「恐竜時代の出来事のお話をぜひ聞かせていただきたい」。 ある日「世界オーラルヒストリー学会」から届いた一通の手紙には、こう記されていた。 少年時代に行方をくらました父が、かつてわたしに伝えた恐竜時代の記憶。語り継ぐ相手のいないまま中年となったわたしは、心のうちにしまい込んだ恐竜たちの物語ーー草食恐竜の男の子と肉食恐竜の男の子との間に芽生えた切ない感情の行方を、聴衆の前で語りはじめる。 食う者と食われる者、遺す者と遺される者のリレーのなかで繰り返される命の循環と記憶の伝承を描く長編小説。 表題作ほか、書き下ろし作品「最後のドッジボール」を収録。
仕事で空を飛んで、この島にやってきた「僕」に人生2度目の決行のときが近づく。無人のはずの北硫黄島に住む人々、戦争の記憶、看守と囚人、6色の風船…人はなぜ飛ぼうとするのかそして飛ぼうとしないのか。書き下ろし「孤島をめぐる本と旅」を収録。
戦後から現在まで続く「秘密プロジェクト」があった。発案者は、運輸省の若手官僚・山本清晴。敗戦から数年たったある時、新橋の闇市でカストリを飲みながら彼は思いつく。「底のない穴を空けよう、そしてそれを国の新事業にしよう」。かくして「日本ーブラジル間・直線ルート開発計画」が「温泉を掘る」ための技術によって、始動した。その意志を引き継いだのは大手建設会社の子会社の広報係・鈴木一夫。彼は来たるべき事業公表の際のプレスリリースを記すために、この謎めいた事業の存在理由について調査を開始する。ポーランドからの諜報員、作業員としてやってくる日系移民やアジアからの技能実習生、ディズニーランドで待ち合わせた海外の要人、ブラジルの広報係・ルイーザへの想い、そしてついに穴が開通したとき、鈴木は…。第55回文藝賞受賞作。