小説むすび | 著者 : 岩崎力

著者 : 岩崎力

アレクシス あるいは空しい戦いについて/とどめの一撃アレクシス あるいは空しい戦いについて/とどめの一撃

ユルスナール没後30年記念  ユルスナール(1903-87)が「自作」と認めた最初の作品である『アレクシス』と、36歳のときに刊行された『とどめの一撃』。作家が『ハドリアヌス帝の回想』で世界的な名声を得る以前の、初期の代表作2篇をセレクトした。  ボヘミアの若い音楽家であるアレクシスが、「せめて自分自身の道徳には悖らぬよう」生きるべく、妻モニックのもとを去るために書き残した手紙の形をとった『アレクシス』。ユルスナールはこの中篇について後年のインタビューで、リルケの強い影響のもとで書かれたと語っている。いっぽうの『とどめの一撃』は、ロシア革命と大戦によって孤立したバルト海沿岸の片田舎を舞台に、三つ子のような三者による愛の悲劇を描いたものだが、実際に起こった出来事に着想を得たという。  物語はいずれも主人公の声で語られるが、その「意志的に抑制した語調とほとんど抽象的な文体」は微妙なほのめかしに満ちており、須賀敦子氏はこれを『ユルスナールの靴』のなかで、「木陰のような、深い陰翳の気配がある」と評した。  ユルスナール・セレクション3に収められた堀江敏幸氏のエッセイを巻末に再録。略年譜付き。

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