著者 : 峰隆一郎
関ケ原の合戦が終結して五年。世に溢れた浪人は、“武芸者”として名を上げなければ生きられぬ時代であった。慶長十年十月、宮本武蔵という無名の武芸者が、京都の吉岡憲法に挑戦状を叩きつけた。憲法は代々、足利将軍剣術指南を仰せつかってきた名門であった。同じ頃、美作・宮本村出身の武蔵は、同姓同名の剣の達人の噂を聞きつけ、京に向かっていた…。世に名高い一乗寺下り松の決闘を軸に、従来の武蔵像を覆す独自の史眼で描く“日本剣鬼伝”シリーズ第一弾。
慶安3年、旗本の志良堂兵庫は江戸・湯島で白装束と黒装束が入り乱れての奇怪な斬り合いを見た。その夜、妻の鹿手が攫われ、兵庫は手掛かりを求めて軍学者・由井正雪に出会う。由井から、泰平の世の裏で続く神徒と仏徒の暗闘を示唆された兵庫は、己の身がその過中に置かれたことを悟り、禄を捨て野に下った。深川に巣食う、敵とも味方とも知れぬ浪人数百に紛れ、兵庫は一刀流の剛剣一本を揮って波乱に満ちた修羅道をゆく。
「何が何でも慶喜の首を取る!」徹底討幕に燃える西郷隆盛をいかに説得するかが、敗色濃い幕府の命運を任された勝海舟の悩みであった。そんな折、海舟は、罷免された元勘定奉行小栗忠順が立てた幕府必勝の戦略書を入手した。これで西郷を牽制できる。海舟はほくそ笑んだ。一方、小栗とともに上州へ落ちた風戸俊索は、薩長軍迫る長岡、新潟そして会津へと転戦したが…。血塗られた激動の幕末を、爽やかに駆け抜けた青年剣士俊策の生きざまを描く『新幕末風雲録』完結編!
文政9年-。11代将軍家斉の愛妄お美代の方の義父は中野播磨守清茂(石翁)。向島に豪華な屋敷を持っている。その敷地に剣術道場を建て、7人の腕の立つ浪人を雇い、無料で門弟たちに剣を教えさせている。その7人の中の1人、蛇目孫四郎が主人公。石翁は退屈しのぎに孫四郎に市中の殺人事件を調べさせる。その事件のことを聞くのが好きなのだ。調査費は一切石翁が出す。事件のあるごとに、孫四郎と付き合いのある北町奉行所同心、蛙半兵衛が事件を持ち込んでくるのである…。書き下ろし大型時代小説。
「幕府のために死ぬ」と言い切る勘定奉行小栗上野介忠順は、風戸俊策の恩人だった。小栗のためなら死ねる。それが俊策の偽らざる心情だった。大老井伊直弼が凶刄に倒れ、やがて倒幕攘夷の急先鋒だった清河八郎がなぜか幕府の信を受け浪士組(後の新撰組)を募った。友人の土方歳三は浪士組に入り、一方俊策は、治安維持のために新設された浪人奉行所の同心となった。剣に命を燃やし、己が野望を託す激動の青春を描く、迫力の大河時代小説第1弾。
新政府の反対分子を一掃するには金が要る。が、いずれニセ札は発覚する。邪魔者は川路利良大警視ただひとり。明治9年8月、築地の伊藤邸で、長州の三巨頭が密談していた。そのとき、伊藤博文工部卿は不気味な笑いをたたえながらある男を思い浮かべた。旧幕臣不破亮之介,29歳。肥前鍋島に伝わる殺人流の極意“三年殺し”を体得した男…。明治12年、衆目を集めた藤田組ニセ札事件を背景に、剣鬼と化した男の非情の最期を描く、迫力時代小説。
新宿区役所近くで小さな傷害事件が起き、1人の若者が植物人間となった。被害者の白井は、新宿中央警察署の遊佐刑事の上司だった津田警部の娘を、3年前に4人で強姦し自殺へと追いやった1人だった。遊佐は職を忘れ、娘の死後退職し失踪した津田の影を追うが手掛かりは掴めなかった。数日後、L特急「しなの86号」のトイレの中で殺害された男が白井の仲間の井藤と判明した時、遊佐は津田の復讐だと確信し松本へ飛んだ-。だが、3年前の津田の白骨死体が発見され、事件は思わぬ方向へとむかう…。そして遊佐が出合った驚くべき人物とは…?
明治11年、長州出身の陸軍将校が相次いで斬殺された。大警視川路利良は死体検査証から〈暗殺者は左利きの剣の達人〉と断定した。折しも探索中の警視局探偵掛・藤田五郎は、榊原道場の門弟で、沖田総司に似た21歳の書生早乙女魁を下手人と睨んだ。が、魁は右利きで剣に才はないという。藤田は執拗に魁の過去を洗い始めた…。惨殺された父母の復讐に燃える無眼流の天才・左利き剣士の劇的生涯を、時の内務卿伊藤博文暗殺計画を背景に描く異色の時代小説。
事件はすべて寝台特急「さくら」で発生した。まずダイイングメッセージを残して男が怪死。ついで変事を通報した女が射殺された車内から消失。そして第3の殺人。なぜ「さくら」なのか?犯人は3度とも目撃された美貌の女性なのか!?鉄壁のアリバイが崩れたとき、殺人特急は過去に向って逆走しはじめる!
時は明治10年、政府高官の誰もが不平士族に暗殺されて不思議のない時代だった。司法卿・大木喬任を狙う刺客7人を倒し、晋介は一夜にして“人斬り警部”の異名を馳せた。それが彼を“歴史の悲劇”へと向かわせる岐路となった…。史実に材を採った最後の人斬り剣士を描く異色の時代小説!
長野県戸倉上山田温泉付近の千曲川にかかる大正橋に立っていた河口日奈子は、水銀灯めがけて襲ってきた蜉蝣の大群に巻き込まれて死亡した。-1年後、フランスから帰国した日奈子の愛人、高比良亮は、彼女の事故死に疑惑を抱き、上山田温泉を訪れて事故当夜の状況を調べだした。そして、日奈子の死の直前まで橋の水銀灯が消えていたことを知った…。事故から1年、亮の調査に触発されたかのように連続殺人が!