著者 : 峰隆一郎
慶長十年(一六〇五)、江戸には幕府が開かれ、仕官先を探す浪人が溢れた時代であった。そんな世に忽然と現われた宮本武蔵は、武芸者として名を上げるべく京のの名門道場の主だった吉岡憲法に挑戦状を叩きつける。時同じく、美作宮本村の武蔵は同姓同名の男の噂を聞き、己が腕を恃みに京へと向かう…激しい剣戟描写に加え、既存の武蔵像を大胆に覆した剣豪小説の極北。
蛇目孫四郎ー向島にある中野播磨守清茂の広大な屋敷内にある剣術道場に住まう剣士である。それも十二、三人いる居候剣士の中でも一、二の凄腕である。江戸市中で事件が起きると北町奉行所同心、蛙半兵衛が知恵を借りにやってくる。半分は孫四郎の懐を狙って酒を飲みにくるのだが。文政八年二月、商家の娘が寺詣りの帰りに殺された。
佐世保発の寝台特急「さくら」に美しい女がたった一人で乗車してきた。そして走行中に忽然と姿を消した。八柏侑子-消えた女の偽名こそ、その後の惨劇のカギだったのだ。後に起きた同じ「さくら」車内での毒殺事件の容疑者の女も侑子と同じく消えた。無頼探偵・鏑木一行の執念の捜査は、真相に近づけるか。
「人の斬りようを考えよ」という師・伊藤弥五郎の言葉一途に体で剣を学ぶ小野善鬼。当然、敵も多くなる。今も、彼に殺された飯田勘解由左衛門の門弟たちが待ち伏せている。善鬼は走りながら人数を数えてみた。21人いた。斬る相手を選んでいる暇はない。敵はみな斬り捨てるのだ…。若き頃の自分と同じ激しい太刀節を善鬼にみる弥五郎。その師との葛藤の中で磨く善鬼の剣。
横浜外人墓地で、白昼、銀座のクラブ『久利』のママが殺された。どうやら彼女は、大がかりな贈収賄事件に関わっていたらしい。元警視で、今は気ままなルポライターの雨宮退介が、調査を開始した。とたんに、秘密を握る証人が消されてしまう。野心と欲望がもつれあう中で、退介は殺し屋たちの襲撃にも怯まず、事件の謎に迫る。
高松を20時36分に出発した寝台特急『瀬戸』は一路、東京を目指した。偶然に個室の向かいあう席に坐った高校時代の同級生の若い男と女。その女が死体となって発見されたとき、列車は、走る“鋼鉄の柩”と化した。女蕩しの民間調査員鏑木一行が、美人の不審死体からバイオレンスな手法で隠れた犯人を割り出す。
蛇目孫四郎は傭主の中野石翁に呼ばれ、書院に入ってゆくと、奉行所の与力に引き合された。与力は昨夜、孫四郎が夜盗を斬り伏せた手並から近頃江戸市中を荒し回わる夜盗の始末を頼みに来たのだった。渋々承諾した彼は夜更けの街で自分と同じ奉行所の手形を持ち、夜盗狩りを請負った浪人と出合って…。夜盗と浪人の両者の始末を狙う公儀に、孫四郎の醒めた炎がくすぶり出した。
鎌倉幕府を牛耳る北条一門に反旗をひるがえして挙兵し、幕府の滅亡、南北朝の動乱のなか、勇将・楠木正成、新田義貞らを倒して征夷大将軍となり、室町幕府の礎を築いた足利尊氏。幾多の合戦と政略・政争に明け暮れた尊氏の一生を陰で支えた多くの女たち。妻・登子、白拍子の花夜叉、藤夜叉、阿野廉子をはじめとする美しく妖しい女たちと尊氏との濃密な色模様を円熟の筆致で描き上げた長篇官能時代小説。
円四郎は脇指を抜いた。女はハッとなって脇指を見る。一度見たらおしまいだ。女の目が光を失ってトロンとなった。そして、「抱いてください」と言った。体から芯が抜けたようだ。この世に三口あるといわれる淫刀痣丸。女を悶え狂わす脇指を狙って襲い来る敵たちを、無住心剣流の達人・真里谷円四郎の凄まじいまでの豪剣が縦横無尽に斬り倒す。
戦乱の世を力ずくで平定し、天下人となった織田信長。尾張統一、桶狭間の戦い、美濃攻略にはじまる激しい歴戦を経て、謀反によって本能寺で果てた信長の生涯を陰で支えた女たち。生娘を嫌い、性技に長けた若後家を好んだ信長は、吉乃・直子・お稲などの妖艶な熟女とのまぐわいに耽り、戦さに疲れた心を癒した。女を通して信長を描いた異色作。
鏑木兵庫は神田明神の境内を出たところで、侍達に追われる女に出くわした。行きがかりで7人の追手を斬り伏せ、女を助けたが、女は追われる理由について、一言も話さない。旗本か大名の侍女風で、背後に複雑な事情がありそうである。案の定、その女・津香と兵庫は次々の刺客に襲われた。刺客を放つは将軍家側用人・北多見若狭。兵庫の白刃が暴く大奥の確執。
鏑木兵庫と松代鬼平は共に刀を下げたまま対峙していた。人斬りの現場を見られた松代が兵庫に挑んだのだ。だが腕が違った。詫びた松代との話の中で、互いに犬同心を斬っていたことを知る。『生類憐みの令』を嵩にきて、庶民にたかる犬同心への天誅は当然なのだ。人を斬るより犬を殺した方の詮議が厳しいという狂気の沙汰に、男たちの怒りは、やがて犬を狩り犬同心を狩る必殺剣となって…。
勤王攘夷に揺れる幕末京の町で、土佐勤王攘夷派の首領・武市半平太を慕い、勤王の敵であると言われれば何のためらいもなく殺人剣を振い“人斬り以蔵”と怖れられた男。激動する日本の波に揉まれながらも、志士たちとは異質の生涯を終えた暗殺者。人斬りは正義であり天誅だとひたすら信じ、罪悪感も私利私欲もなく四十数人を斬った以蔵の非情な剣が京に舞う。
激変する幕末、土佐勤王攘夷派の首領・武市半平太を慕い、ともに京に赴いた岡田以蔵。ただ勤王のためという大義名だけで、殺人剣を振り続け“人斬り以蔵”と怖れられた男。剣も思想にも理屈は無い。日本の夜明けを目指す勤王の志士たちとは異質な道を歩み志士たちから重宝がられ、ひたすら暗殺をくりかえす男。修羅の京の町に血飛沫が舞い以蔵が走る。
代議士愛人の引き逃げを目撃した男と女。迫水純一郎は大金を受けとるために博多発「ひかり8号」に乗ったが、広島駅到着直前に毒殺された。札幌で五千万円を入手するはずだった結城佑子は迫水が殺された三時間後、犯人と遭遇、そして殺された。走行中の新幹線から札幌への殺人ルートはいったいどこにあるのか?
東京-上野間3.6キロが完璧なアリバイを作った。2月12日、上野に9時49分に到着した札幌発「エルム82号」に大量の血液が発見され、9時33分に東京に着いた博多発「あさかぜ4号」に血液の持ち主が死体となっていた。着差13分、距離にして3.6キロ。犯人はどうやって日本の両端から発車する二つの列車に乗れたのか。
関ケ原の合戦が終結して五年。世に溢れた浪人は、“武芸者”として名を上げなければ生きられぬ時代であった。慶長十年十月、宮本武蔵という無名の武芸者が、京都の吉岡憲法に挑戦状を叩きつけた。憲法は代々、足利将軍剣術指南を仰せつかってきた名門であった。同じ頃、美作・宮本村出身の武蔵は、同姓同名の剣の達人の噂を聞きつけ、京に向かっていた…。世に名高い一乗寺下り松の決闘を軸に、従来の武蔵像を覆す独自の史眼で描く“日本剣鬼伝”シリーズ第一弾。