著者 : 島尾敏雄
漱石と夢文学。 アーサー王伝説を踏まえたファンタジー「幻影の盾」。SPレコードにまつわる怪異をえがいた「サラサーテの盤」。妖しい幽霊屋敷を舞台にした都市幻想小説「白血球」。超現実主義的手法で夢の世界を克明に記述した「夢の中での日常」。他全38編。 夢の記述と夢の軌跡。 夏目漱石 富士川義之編 夢十夜 永日小品 より 琴のそら音 一 夜 趣味の遺伝 変な音 カーライル博物館 倫敦塔 幻影の盾 薤露行 解説 幻想作家漱石 内田百間 別役実編 盡頭子 件 道 連 豹 冥 途 昇 天 山高帽子 影 狭 莚 青炎抄 東京日記 サラサーテの盤 解説 内田百間的幻想の特質 豊島与志雄 堀切直人編 白 蛾 沼のほとり 白血球 都会の幽気 或る女の手記 道 連 白塔の歌 どぶろく幻想 霊 感 幻の園 真夜中から黎明まで 猫 性 怪異に嫌はる 解説 謙譲な闘い 島尾敏雄 種村季弘編 孤島夢 石像歩き出す 摩天楼 夢の中での日常 勾配のあるラビリンス 亀甲の裂け目 大 鋏 月 暈 死人の訪れ 子之吉の舌 鬼剥げ むかで 冬の宿り 解説 へんなあひるの子
南海のカゲロウ島に配属された朔中尉。特攻隊長として、常に死を目の前にして過ごす彼は、島の少女トエに出会う。おとぎ話のような二人の恋。戦局が緊迫する中、遂に出撃命令が下るー(「島の果て」)。生々しく描かれる感情表現と、やわらかな筆致で綴られる情景描写との両立により決定的な存在感を放つ島尾戦争文学。趣の異なる8編を、寄せては返す波のように体感できる短編集。写真、関連年譜も収録。
『死の棘』の最後の章ののち発表された八つの短篇。島尾敏雄が、執拗に描き続けてきた“夢”。何故、彼は、これほどまで“夢”にこだわったのか…。夢の中に現実の関係を投影し、人の心の微妙な揺らめきにしなやかな文学的感受性を示した、野間文芸賞受賞作家の名作短篇集。
戦争末期の離島での“特攻”命令を待つ若き特攻隊長と若い島の娘でもある女先生の、苛烈な非日常の中の“愛”。処女作「はまべのうた」から「島の果て」「徳之島航海記」「アスファルトと蜘蛛の子ら」を経、昭和24年末の名篇「ロング・ロング・アゴウ」まで、島尾敏雄初期秀作を収録。
人間の存在を揺るがす根源的な不安を、心の奥深くに刻んだ即時待機の特攻体験。終焉の日常は暗く美しい光を放ち、〈夢〉の世界へと飛翔して行った。死をかかえ込み極限を生きた特攻隊員の異常な生の日々を、穏やかな島の人々の生活と対比させ、鋭い感性で描く「出孤島記」など、生と死のはざまで、現実と非現実、日常性とは何かを問う島尾文学傑作7編。
思いやりの深かった妻が、夫の「情事」のために突然神経に異常を来たした。狂気のとりことなって憑かれたように夫の過去をあばきたてる妻、ひたすら詫び、許しを求める夫。日常の平穏な刻は止まり、現実は砕け散る。狂乱の果てに妻はどこへ行くのか?-ぎりぎりまで追いつめられた夫と妻の姿を生々しく描き、夫婦の絆とは何か、愛とは何かを底の底まで見据えた凄絶な人間記録。