著者 : 島田雅彦
千鳥姫彦はもどかしい。大学のサークルでのサヨク=左翼活動では成果があがらず、美少女みどりとの恋は思い通りに進まない。とまどうばかりの二十代初めの混沌とした日々を、果てしない悪ふざけでごまかしながら漂い続ける姫彦と友人たち。若く未熟であるがゆえに、周囲との距離感が測れず、臆病で自虐的にならざるをえないー、そんな孤独な魂たちが、きらめく言葉の宇宙に浮遊する。
一八九四年長崎、蝶々さんと呼ばれた芸者の悲恋から全てが始まった。息子JBは母の幻を追い、米国、満州、焼跡の日本を彷徨う。三代目蔵人はマッカーサーの愛人に魂を奪われる。四代目カヲルは禁断の恋に呪われ、歴史の闇に葬られる。恋の遺伝子に導かれ、血族四代の欲望は世紀を越える。日本現代文学の全字塔たる画期的力篇。
ヒコクミンは処刑せよー暗躍する秘密結社・千年王国の辣腕エージェント、ジャック・アマノは、ある処刑の執行を機に組織に疑問を抱き始める。殺された二人は無実だったのか?千年王国に反旗を翻す伝田家麿の正体は?国家の危うさと時代の深淵を鋭く描く長編ミステリー。
なぜ私の世界には光が差し込まないのー。様々な言葉や音楽、そして匂いがアンジュの世界を創造する表題作。伊東君ち、クルド人ゲリラのテント、そしてマサイ族と、世界中を飛び回る「茶の間を旅して」。営業成績抜群の豊臣秀吉に蔑まれ、得意先の徳川家康社長のもとに日参する、サラリーマン明智光秀の物語「カタストロフの理論」。ある日起きると鼻でモノを見ていた「奇蹟の鼻」など、九編を収録。
「帝国」はぼくたちのこころの中にあるー。丸い卓袱台、四本脚のテレビに、フタ付きのくみ取り式トイレ。かつては、こんな暮らしが当たり前だった。そこに暮らす怪人アータン、妖怪シリナメ、ゲロゲロヨネダたち。若くして死んだ「ぼく」があの世から18年間の記憶を語りはじめる。忘れられたかつての郊外生活、「帝国」の記憶をやさしく誘うノスタルジー溢れる郊外今昔物語。
挑発的だが媚がなく、冷たく澄んだ眼差しのアリスはアリゾナから来た“キコク”。美少女転校生へのやっかみから、アリスは、男をとっかえひっかえ遊びまくって家出し、日本に戻ってきた淫乱女、という噂を立てられた。でも、アリスはこの学園で恋に落ちたー。恋をする者、嫉妬する者…誰もが様々にやけっぱちになる高校生たちの学園恋愛小説。
今こそ新しい預言者があらわれる時だー。ある時は銀行員、ある時はアステカの神官の子孫。神出鬼没、正体不明の“神の代理人”謎の預言者ムルカシを探せ!元カソリックの信者で後に娼婦となったマリ子と、聖書と『ガンジー自伝』を愛読する天才的平和主義者の日本人ワタルが、ムルカシを追って都市を彷徨い、聖地を巡礼する。永遠の悟りを求めた魂の遍歴を綴るアンチ宗教小説。
このままでは日本に未来はない。オレは救世主アルマジロ王を何としても探し出すー流れ弾に当たって死んだ親友はそう書き残した。何処へ行ってもよそ者でしかなく、砂漠のような都市を永遠にさまようみなし子=堕天使たち。そんな彼らの孤独を癒し、守ってくれる幻の救済者アルマジロ王を追い求めて、ぼくは世界の果てまで巡礼の旅に出た…。愛と性と思想と放浪の物語7篇収録。
捉えどころのない管理と支配の触手にみちた「現在」を生きる若者の矛盾と混乱を、クラシック音楽形式の実験的手法で描いた野間文芸新人賞受賞作ほか「スピカ、千の仮面」を収録。
「旅する作家」「気鋭の女流写真家」「屈指のパーカッショニスト」書き下ろし小説+現地撮影写真+オリジナルCD。アフリカの大地に魅せられた3人のアーティストによるコラボレーション。広大な大陸に見た「幻想の王国」旅行記。
ぼくたちの意識の迷宮を探検しよう。時代は神経痛だ。永遠の船酔いと関節のうずきの中でぼくたちは死ぬことも許されない。あらゆる言葉を駆使して自分をユートピアそのものとしようとした真理男は言葉を失ってもなお、歌う。-島田文学の集大成長篇小説。
ぼくはあなたの声を聴いて自分が男だってことが恥しくなりましたー。女性の子宮の中を泳ぐ精子のような気分をなんとか様式美のなかに収めたい…この野心のもとに生まれた、表題作「ドンナ・アンナ」他、「観光客」「聖アカヒト伝」「ある解剖学者の話」の四つの短編を収録。独自の言語感覚で、常に新しい小説世界を構築している著者が描く、マニエリスティックな愛の物語。