著者 : 嵯峨静江
後ろから突き飛ばされた男の顔から笑みが消え、かわりに驚愕の表情が浮かんだ。恐怖に顔をひきつらせ、必死にバランスをとろうとする。だが、こらえ切れずにエレベータに足を踏み入れた男は、そのまま床を通り抜け、断未魔の悲鳴をあげながら落ちていった。現場に駆けつけたチスレンコ主任捜査官は、死体も突き飛ばしたほうの男も発見できなかった。党の大物委員長から要求されたことは、ソ連に幽霊は存在しないことを証明し、この騒ぎが悪意に満ちた西側帝国主義諸国の陰謀であると暴きだすことだった。しかし、大勢の目撃者に会い、調査をすすめればすすめるほど、事件の不可解さは深まって…。ペレストロイカ以前のモスクワを舞台に官僚機構を襲った幽霊騒ぎの顛未を描く表題作ほか、英国ミステリ界の鬼才が皮肉とユーモアをこめて贈る、ヴァラエティ豊かな傑作短篇集。
『マクベス』の上演には必ず災厄がふりかかる-パリスもその言い伝えは知っていた。しかし彼自身が死体の発見者となり、殺人の容疑をかけられることになろうとは…売れない俳優パリスにひさびさに舞い込んだ仕事は、地方劇場で上演される『マクベス』の端役だった。共演者は皆、一癖ある俳優ばかり-思わぬ殺人事件に巻き込まれたパリスの悲喜劇を、才人ブレットが達者な語り口で描いた人気シリーズ最新作!
あれはやっぱり事故じゃない。殺人だったんだわ!-ホテルの階段から落ちて死んだ老女の宝石が盗まれたのを知ったとき、パージェター夫人の疑念は確信に変った…〈デヴェルー〉は上流階級の人々が老後を送る、長期滞在客専用の高級ホテル。泊り客は貴族、退役軍人、元女優-誰もが申し分のない地位と富を持っている。亡き夫の遺産で優雅な生活を楽しむパージェター夫人は、その新しい住人だった。老女の転落死が起ったのは、夫人がホテルに到着した日の夜のことだ。老女は以前から目が悪く、事故であるのは明白に見えた。だが、あれは宝石目当ての殺人だったのではないか?だとしたらこのホテルに殺人者がいることになる…夫人は夫に伝授された特殊な“技術”を使って独自の調査を始めたが、まもなく第2の殺人が-陽気でリッチでちょっと謎めく、未亡人の素人探偵パージェター夫人登場。鬼才ブレットの新シリーズ第1弾!