著者 : 平岡篤頼
霧と雨に閉ざされた絶海の孤島での「眠る人魚の誘惑」、単調で退屈な工場で働く会計係による「王殺しの冒険」──いずれが現実で、いずれが幻覚か。触れては、また遠ざかる二つの物語。執筆後30年を経て発表された、幻のデビュー作。
没後10年記念復刊、ヌーヴォー・ロマンの到達点! というわけで、ここで私はまた反復し、要約する。アイゼナッハから廃墟だらけのチューリンゲンやザクセンを経てベルリンへと向かう果てしなくながい列車旅行の最中に、私はずいぶん久しぶりに、話を簡単にするために私の分身、あるいはそっくりさん、あるいはさらにもっと演劇的でない言い方で《旅人》と呼ぶ男を見かけた──。 〈第二次世界大戦直後の混乱したベルリンへの特殊工作員の潜入あり、謎の殺人事件あり、煽情的なうら若い少女売春あり、網をはりめぐらした秘密組織や警察と風俗業者の癒着があり、サドマゾ的な拷問があり、裏切りや処刑があり、最後も連鎖的な殺人と偽装で終わる。(中略)『反復』はB級エンターテインメント的な軽快さとばかばかしさが充満していて、アメリカ文学で言う《パルプ・フィクション》と受け取る読者もいるかもしれない〉(本書「訳者あとがき」より)。 ベルリンへと向かう列車、窓から殺人現場の見えるホテル、SMプレイに魅せられた少女のいる人形店……華麗なる迷宮を、秘密の使命を帯びた〈私〉がさまよう5日間。 没後10年記念復刊、著者渾身の最高傑作。ヌーヴォー・ロマンの到達点!
生まれ育った生家へ、子どもの頃のままで帰りたいーー戦時中、家の下に穴を掘り続けた退役軍人の父が、その後も無器用に居据っていたあの生家へ。世間になじめず、生きていることさえ恥ずかしく思う屈託した男が、生家に呪縛されながら、居場所を求めて放浪した青春の日々を、シュールレアリスム的な夢のイメージを交えながら回想する、連作11篇。虚実織り交ぜた独自の語りで、心弱き庶民の心情に迫った、戦後最後の無頼派の名作 生まれ育った生家へ、子どもの頃のままで帰りたいーー戦時中、家の下に穴を掘り続けた退役軍人の父が、その後も無器用に居据っていたあの生家へ。世間になじめず、生きていることさえ恥ずかしく思う屈託した男が、生家に呪縛されながら、居場所を求めて放浪した青春の日々を、シュールレアリスム的な夢のイメージを交えながら回想する、連作11篇。書き留め続けた純粋な生の光景、虚実織り交ぜた独自の語りで、心弱き庶民の心情に迫った、戦後最後の無頼派の名作!
芥川賞候補にあげられた表題作ほか「かけまくも」「潰滅」など、文体上のさまざまな実験を試みた、前著『薔薇を喰う』以後十五年の作品を集成する。夢と記億、そしてユーモア、最新創作集。
おなじ外観の家が続く雪に塗りこめられた街の迷路をさまよう敗残兵の姿と、「ライフェンヘルスの敗戦」と題された絵の場面とが交錯し、物語は複雑な軌跡を描きながら展開回帰をくり返す。兵士は銃撃をうけ、居合わせた医者に介抱されながら死ぬが、意表をつく結末が控えている。執拗なまでに幾何学的な描写によって独特の世界を構築し、ヌーボー・ロマンの旗手となったロブ・グリエの代表作。
精緻きわまりない究極の「私小説」は、父の遺骨探しの旅から始まる。過去・現在・未来が相互嵌入式に複雑に重なり合いながら言語は歴史をはらみ、アカシアの葉がそよぐとき、小説が生まれる。本書は、作家としての自分の「起源」にさかのぼる、クロード・シモン版『感情教育』。
霧と潮風に閉ざされた絶海の孤島の物語と、疎外を強いる近代工場で敢行される王殺しの物語。いずれが現実で、いずれが幻覚かわからないままに、カフカ的な晴朗さのなかで犯行は何度も繰り返されるが、王は死なず、話者は孤島から脱出することができない…。幻想と反逆のロマン。執筆後30年たって発表された、ロブ・グリエの処女作。
パリでのある一日のぼくのあり様や、ぼくの見聞するもの、出会う出来事は、パリに到着してからの日々やそれまでの過去の日本やパリでの生活の記憶と深く連動して微妙な色彩をおびる。そしてこのパリの匂う滞在記は、見事な日記文学に変貌する。