著者 : 平敦子
ロンドンでの独り暮らしのために仕事が必要なテオドラは、建設会社の社長ジェイムズが秘書を探していると聞いて応募した。前任の秘書たちに色目を使われ辟易していたというので、髪を引っつめ極度に地味な姿で面接を受け、首尾よく採用になる。ジェイムズは噂どおり高慢なボスだが、抗いがたいほど魅力的。こんな外見のおかげで、彼が目もくれずにすんで助かったわ。だが、ある朝、テオドラはやむを得ぬ事情で出社が大幅に遅れ、すごい剣幕で住まいを訪ねてきたボスに素顔を見られてしまう。辞職を伝えるテオドラに、なんと彼は出張旅行への同行を命じ…。
半年前にロンドンへ出てきて、大企業に勤めているアイヴォリー。ある日、オランダにいる社長の指示で、大至急資料をそろえたが、担当秘書のパスポートの有効期限が切れていたため、急遽、アイヴォリーが代わりに書類を届けにアムステルダムへ飛んだ。夜遅くに指定のホテルに着いたときには疲れきっていて、案内された部屋に入ると、ベッドに倒れ込むように眠りについた。翌朝、近くで声がし、アイヴォリーは目覚めた。「きみは誰だ?」驚いて見ると、隣のベッドにハンサムで大柄な見知らぬ男性がいる。なんとそれは、まだ会ったことのなかった社長、ローソンだった。ああ、よりによって、間違って社長の部屋で寝てしまったなんて!
私の代わりに、婚約を破棄したいと彼に伝えてきてーアリスは妹からの無理なお願いを断りきれず、妹の婚約者に会うため、ひとりギリシアへ飛んだ。旅の途中、とあるホテルに滞在していたとき、あろうことかボーイに扮した謎の男に誘拐されてしまう。名はステファン・カサンドロス。妹の婚約者をよく思わぬホテル王。アリスを妹だと思い、彼女を道具に一矢を報いようとしているらしい。彼女が必死で人違いだと訴えても耳を貸そうとせず、ステファンは彼が所有する地所へアリスを連れ去った。「きみを、思うがままに扱わせてもらう」と、容赦なく宣告して。
美しく狡猾な姉に虐げられ続け、幸福すらテッサは奪われた。焦がれていたギリシア人富豪ポールと、姉は婚約したばかりか、テッサの恋心を「気味が悪い」と嘲笑ったのだ。骨の髄まで恥辱を味わわされたテッサは、耐えきれずに家を出た。2年後ー帰郷したテッサはあまりに残酷な現実を知らされる。ポールが火傷を負い失明したというのだ。しかも姉は彼を捨てた。身代わりでいい。側にいられさえすれば。一途な想いを貫くため、テッサはいまも姉を待つポールが住む、キブロス島へと向かった。姉のふりをして。そして…彼の妻になった。
今は亡き夫の不義の子テリーを育てているキャロルは、子供の将来のために亡夫の実家を訪ねる決心をする。たどり着いたのは、イタリアの美しい小島に立つ壮麗な屋敷。夫の兄である男爵、ルドルフがそこに住んでいる。彼を見たとたん、キャロルは衝撃を受ける。貴族の血を引き、彫刻のような美貌を持ちながらも、その横顔には人を寄せつけない傷跡がほの見えていたのだ。キャロルはなんとか彼から滞在の許可を得たものの、引き替えに提示されたのは、彼との形だけの結婚だった!
「ぼくはきみが憎い」マットの緑色の瞳がぎらりと光った。「きみに、ぼくが味わったのと同じ苦しみを味わわせてやる」憎しみに満ちた義兄の言葉に、フランセスカは震えあがった。ロンドンからはるばるカリブ海までやってきたのに、8年ぶりの邂逅はぞっとするほど残酷で、禍々しい。フランセスカは、静かに悲しみにうち沈んだ。8年前のあの夜、たしかに義兄と義妹は過ちを犯した。だがあれはもう、過去の記憶に埋めたのではなかったのか。フランセスカの脳裏に、15歳の禁断の夜がありありと甦った。
ブルックは妹からの手紙に驚いた。もうイギリスへは帰らない、大学進学もやめるという。ホームステイ先の主人ジュールダン・マルシェに、すっかり夢中になってしまったというのだ。ブルックは妹を連れ戻しに、慌ててノルマンディーに向かった。ジュールダンは古い城館に住む著名な実業家とのことだが、若く世間知らずな妹をたぶらかすなんて許せない!ところがジュールダンは、妹の気持ちを変えさせるためと言って、ブルックにとんでもない提案をした。「僕たちが恋仲になったふりをすれば、彼女もあきらめて帰るさ」。