著者 : 広瀬仁紀
「死ぬなら戦場で死にたい」と、函館五稜郭で討幕軍に討たれた土方歳三。幕府の崩壊と共に消えた新選組の鬼副長として活躍した彼は、局長・近藤勇が官軍に投降した後も、新選組の指揮をとり、最後の最後まで戦い続けたー。頼みとする会津も敗れ、仙台で榎本武揚軍に加わる。そして、函館での凄絶な闘死。冷徹無比と言われた男の美しい生きざまとその魅力を浮き彫りにする力篇。
大手都市銀行の新宿西口支店預金課に六年間勤務する沢口由美は、入行当時から机上での横領計画を練っていた。そして、この計画は外資系会社名義の13億円にものぼる「残置預金」を見つけたときから、現実のものとして動き始めた。由美は天性の美貌と預金課という立場を利用して、緻密な計算の上に構築された横領のトリックを次々と実行していく…。内からの犯罪に対しての無防備さを鋭く指摘した犯罪小説。
横浜市内に本社を置く東海機器と日本自動車精密の二社は、業界を二分する自動社部品メーカーであった。互いにライバル会社の弱点を突いて、自社との合併を有利にしようと考える二人のトップ。相手会社の経理部長を抱き込もうとする工作に手を貸し、サラ金地獄に落ちたその妻をモノにしてしまう業界紙記者。色と欲の絡んだ実業界の人間ドラマ。
薩長を主軸とした官軍に敗れた幕府軍は、針路を北に向けた。旗艦開陽にて指揮をふるう榎本釜次郎武揚は、土方歳三総指揮による陸軍を掩護。艦隊を箱館に進攻させ、五稜郭を占拠した。知謀・榎本は明治政府を欺くため“開陽座礁”という奇策を講じ、やがて「蝦夷共和国」の独立を宣言。さらにフランス海軍を味方につけることに成功する。榎本は陣容を整え、明治政府に反撃を開始した。めざすは江戸東京。いや、東海道を進撃し、京の制圧だ。蝦夷共和国の運命と、明治政府は…?逆転の幕末戦記シミュレーション。
景気低迷が続く中、米国銀行から巨額の融資を得る交渉を進めていた業界大手の富国自動車工業。社内では、海外進出に積極的な国際派の常務と、通産省との太いパイプを持つ民族派の専務が、次期社長の座を狙って激しく対立していた。一方、富国自工経営陣への発言力低下を恐れた国内の主力銀行は、同社の個人筆頭株主に接触、対抗策を巡らせるが…。
建設業界を背後から牛耳っていた元総理と建設土木業界の首領の相次ぐ急死は、政界はもとより、業界に大きな衝撃を与えた。日本高速道公団が発表した常越高速自動車道の建設計画に対し、業界内の調整がまったく白紙の状態だったのである。公共事業を足場に次期総裁選を目指す政治家たちの暗闘と、入札にからむ建設土木業界の裏工作を描く長篇企業小説。
「銀行冬の時代」を迎えた。東京に本店を持つ大友銀行、その頭取、大友尚久は、突然に大蔵官僚の意思決定として、金融再編成の話を聞かされた。具体的には、東京に地盤作りを目指す関西のライバル銀行への吸収合併を意味していた。その場では、何の条件も出さずに「了承」を装った大友であったが…。醜くも権謀術数の限りを尽くす、新銀行誕生の裏側を敢然と描破。
人けのない古寺で密会する老年ながら精気に溢れた二人の男。政権与党内で次期総裁の座を射止めんとする第二、第三派閥の参謀同士が互いの肚の内を探りあっているのだ。総理総裁現職の大嶋雄策が党内の不文律を無視し、三選を目指す動きを見せたため政界は大混乱に陥っていた。裏切り、疑心、中傷の渦巻く修羅場で飽くなき覇権争いを制する者は。
足利義昭、羽柴秀吉、徳川家康、明智光秀…。陰謀の天正十年、それは起こった。名探偵・木下勝俊が暴く本能寺の謎。信長殺しの真犯人と、怪僧天海の闇に新視点を与える本格歴史時代小説。
同和証券・営業本部証券部長の道原浩は、偶然知り合った小牧真由美との情事を楽しんだ。だが、1年後、日本大衆党の“爆弾男”と異名をとる芝草謙三に呼び出された道原は、芝草の秘書である真由美が、“道原を強姦罪で告訴する”と脅された。困惑する道原に、告訴取り下げの条件として芝草でつきつけたのは、“裏情報の提供”であった。やむなく条件を飲んだ道原は、インサイダー取引に…。その裏側に仕組まれた二重の罠!?芝草の動きに気づいたジャーナリストの依田健吾が真相に迫るが…真由美が変死体となった発見された。インサイダー取引に絡んで永田町で繰り広げられる、“悪の論理”を鋭く抉った、長編推理小説の秀作。
東都電鉄グループの総帥で、持株会社ダルマ総業会長の鎮目甲斐。湯河原での静養の帰途、箱根ターンパイクで、車の爆発炎上現場にでくわした。焼死した男は、関東地所建物の取締役・河田大介と判明。鎮目は、日本舞踊の“神楽坂の師匠”、私設秘書の吾妻佐理と「老年探偵団」を結成、事件に首を突っこみはじめるが、今度は社長の沢村慶太郎がふぐ中毒死するという異常事態が発生。はたして、この二つの怪死は、マンション建設のため、平将門の祠を壊した崇りなのか?長篇ミステリー。