著者 : 志川節子
小体ながらも繁盛している向島の船宿「かりがね」を営むお路とお律の美人姉妹。その裏の顔は「緋薊」を名乗る盗賊だった。お路は男嫌いだが、盗みに入る先の黒丸(関係者)を籠絡する術は抜群だ。一方、妹のお律は小太刀の名手だが、身分違いの武家の三男坊と恋愛中。そんな二人の気がかりは妹(三女)のお夕の行く末。幼い頃に失明したため師匠の家に住み込みで音曲の修業に明け暮れている。三姉妹の父親はかつて山陰の浜岡藩御用達の廻船問屋の主人だったが、不可解な死を遂げていた。父の死にまつわる手がかりを見つけたお路とお律は、その謎を解き明かすために立ち上がるー。
十八歳で長野から出てきた中山晋平は、島村家の書生として「早稲田文学」の編輯補佐をしていた。しかし、師の抱月や編輯部員たちの文学談義はちんぷんかんぷん。知識も才能もない晋平は、どこか居心地の悪さを感じている。俳優養成所の設立、海外作品の翻訳・演出から新劇の発展に情熱を燃やす抱月に接するうち、晋平の心中に表現への希求が芽生えてきた。「カチューシャの唄」「ゴンドラの唄」「てるてる坊主」。100年経った今なお歌い継がれる名曲に秘められた想いとは。童謡「シャボン玉」発表から100年。作曲家・中山晋平知られざる波乱の人生。
黒船の圧力おびただしい幕末。信州飯田で生まれ育った田中芳男は、巴里で行われる万国博覧会に幕府の一員として参加する機会を得た。その衝撃は大きく、諸外国に比して近代文化での著しい遅れを痛感する。軍事や産業を中心に明治維新が進む中、日の本が真の文明国になるためには、フランス随一の植物園ジャルダン・デ・プラントのような知の蓄積を創りたい。「己れに与えられた場で、為すべきことをまっとうする」ことを信条とする芳男は、同じ志をもつ町田久成や大久保利通らと挑戦し続け、現代の東京国立博物館や国立科学博物館、恩賜上野動物園等の礎を築いていく…。
菱垣廻船の水主だった父が行方知れずになり、神田花房町にある居酒屋「ともえ」で働くこととなったなずなは14歳。器量よしでぴりっとした女将のお蔦と、腕の立つ板前の寛助、ふたりの役に立ちたいなずなは、酒の燗をうまくつける工夫をしようと思い立つ。だが、お客のことに首を突っ込んでしまい、思わぬ騒動に…。うまい酒肴と江戸人情がたっぷり詰まった連作時代小説。
不貞の濡れ衣により婚家を追われ、芽吹長屋で縁結び屋を名乗る、おえん。旧友と二枚目戯作者の仲を調え、安堵した折に驚きの報せが。十年も行方知れずの息子・友松が帰ってきたのだ。若者へと成長した友松には、目印の珍しいホクロが確かにあった。が、おえんにはこの子が友松と思い切れぬ何かがありー。粋に描き出す江戸の人間模様。人情時代小説決定版!
突然縁談を白紙に戻されたおりよ。相手は小間物屋「近江屋」の跡取り息子。それでもおりよと父は近江屋へつまみ細工の簪を納め続けていた。おりよは悔しさを押し殺し、手に残る感覚を頼りに仕事に没頭する。どうしてあたしだけ?そもそも視力を失ったのは、あの花火のせいだったー(「闇に咲く」)。三河、甲斐、長崎、長岡、江戸を舞台に、花火が織りなす人間模様を描いた珠玉の時代小説。
差配から住人まで全員が悪党の長屋に引っ越してきた新住人をめぐる騒動(「善人長屋」)、人の縁を取り持つ“結び屋”が出合った、見合い相手に不可解な態度を取る娘の哀しき真実(「まぶたの笑顔」)、つらいお店奉公に耐えかねた幼い丁稚に、大旦那さまが聞かせた不思議な話(「首吊り御本尊」)など、書籍未収録作品や書き下ろし作品を加えた時代小説アンソロジー。ほろ苦くも心を揺さぶる珠玉の六作を収録。
不貞を疑われて妻の座を追われ、独り住むことになった日本橋の芽吹長屋で、おえんはふとしたことから男女の縁を取り持つことになる。嫁き遅れた一人娘と絵の道をあきらめた男、ひどく毛深い侍と若い娘、老いらくの恋。遠慮のない長屋のつきあいにもなじむ頃、おえんの耳に息子の心配な噂が入ってくる…。人びとの悲しみと幸せを描く時代小説。
花鳥茶屋「せせらぎ」は上野不忍池に面したおよそ六百坪の敷地に、珍しい鳥を集めた禽舎や植物を配した行楽の苑であった。いかがわしさとは縁遠く、女子供にもたいそう受けがよい。子供のころ、手習いの師匠が語ってくれたさまざまな鳥の話に、足が痺れるのも忘れて幼馴染みたちと聞き入った勝次は、ここ「せせらぎ」で鳥かご職人の修業中だった。弟子入りして五年、仲間も皆、巣立ちの時を迎えようとしていた…。
芝神明宮のほど近く、「風待ち小路」には小さな店が集まっている。絵草紙屋の旦那は不甲斐ない息子に気をもみ、生薬屋の内儀は夫の女遊びに悩む日々だ。しかも近所に新しく商店街ができ、客足が遠のいている。そこで若い跡取り連中は、町のためにあることを企てるが…。直木賞候補にもなった、時代小説の逸品。
結び屋、それは人のご縁を繋ぐ業。無実の罪を着せられ、大店の妻の座を追われたおえん。悲しみの中で過ごすうち、ひょんなことから魚河岸の女仲買いと商家の若旦那の縁談を取り持つことに。でも商家の奥には、手ごわい姑が構えていて…。悲しみと幸せが降り積もる連作時代小説。
江戸吉原には、娘を花魁へと染めかえる裏稼業があった。その名も「上ゲ屋」「保チ屋」「目付」。うぶな時分に閨房の技を仕込み、年季半ばで活を入れ直し、常に女心を探り、間夫を絶つ。これら男衆と磨きぬかれた妓達が織りなす人生絵図を陰翳豊かに描く、連作七編。秘められし真心が静かに胸をうつ、傑作時代小説。
絵草紙屋、生薬屋、洗濯屋…。「風待ち小路」には、小さな店が肩を寄せ合うように集まっていた。芝神明宮の門前町でくり広げられる人間模様、親子の絆、そして許されぬ恋。これぞ時代小説の醍醐味。
上ゲ屋、保チ屋、目付…吉原を陰でささえる異能の男たち。妓を遊女に仕立て上げ、年季半ばで磨き直し、合間にあって妓の心を見張り、間夫の芽を絶つ。裏稼業を通して色と欲、恋と情けの吉原を描き切った鮮烈なデビュー作。