著者 : 志川節子
小体ながらも繁盛している向島の船宿「かりがね」を営むお路とお律の美人姉妹。その裏の顔は「緋薊」を名乗る盗賊だった。お路は男嫌いだが、盗みに入る先の黒丸(関係者)を籠絡する術は抜群だ。一方、妹のお律は小太刀の名手だが、身分違いの武家の三男坊と恋愛中。そんな二人の気がかりは妹(三女)のお夕の行く末。幼い頃に失明したため師匠の家に住み込みで音曲の修業に明け暮れている。三姉妹の父親はかつて山陰の浜岡藩御用達の廻船問屋の主人だったが、不可解な死を遂げていた。父の死にまつわる手がかりを見つけたお路とお律は、その謎を解き明かすために立ち上がるー。
童謡「シャボン玉」発表から100年。 国民的作曲家・中山晋平 知られざる波乱の人生。 「日本ならではの 新しい音楽をこしらえたい」 何者でもなかった青年は なぜ名曲を生み出すことができたのか。 【著者からのコメント】 島村抱月の出身地、島根県浜田市は、 私の故郷でもあります。人気女優、松井須磨子と スキャンダルを起こして恋愛に走り、 大学教授の地位も家庭も捨てて 一座の興行主に成り下がった男、島村抱月。 郷土の偉人といえばかならず名が挙げられるのに、 そのじつ侮蔑と揶揄をもって人物が語られる。 子供ながらに、疑問に思っていました。 ほんとうに、スキャンダラスなだけの人物だったのか。 ほんとうは、何をしたかったのか。 彼の書生、中山晋平の視点を借りて抱月の真の姿に 迫ろうと試みたのが、本書『アンサンブル』です。 ーー日本に新しい演劇を! 高い理念を掲げる師、抱月に出会い、 長野から上京した晋平の人生が動き始めます。 ーー日本に新しい音楽を! 家庭の安定、仕事、進むべき道、創作、恋。 もがき、迷い、悩んだ末に 彼らがたどり着いた境地とは……。 ぜひ、本書をお手に取っていただけると嬉しいです。 【あらすじ】 18歳で長野から出てきた中山晋平は、 島村家の書生として「早稲田文学」の 編輯補佐をしていた。しかし、師の抱月や 編輯部員たちの文学談義はちんぷんかんぷん。 知識も才能もない晋平は、 どこか居心地の悪さを感じている。 俳優養成所の設立、海外作品の翻訳・演出から 新劇の発展に情熱を燃やす抱月に接するうち、 晋平の心中に表現への希求が芽生えてきた。 「カチューシャの唄」「ゴンドラの唄」 「てるてる坊主」 100年経った今なお歌い継がれる名曲に 秘められた想いとは。 「この信念は理屈じゃない」 師を信じ、大衆の音楽を作り続けた 音楽家人生の幕があがる。
日本に初めて博物館を創り、 知の文明開化を成し遂げた挑戦者! 幕末の巴里万博で欧米文化の底力を痛感し、 武力に頼らない日本の未来を開拓する男がいた! 日(ひ)の本(もと)にも博物館や動物園のような知の蓄積を揃えたい! 黒船の圧力おびただしい幕末。信州飯田で生まれ育った田中芳男は、巴里で行われる万国博覧会に幕府の一員として参加する機会を得た。その衝撃は大きく、諸外国に比して近代文化での著しい遅れを痛感する。 軍事や産業を中心に明治維新が進む中、日の本が真の文明国になるためには、フランス随一の植物園ジャルダン・デ・プラントのような知の蓄積を創りたい。 「己れに与えられた場で、為すべきことをまっとうする」ことを信条とする芳男は、同じ志をもつ町田久成や大久保利通らと挑戦し続け、現代の東京国立博物館や国立科学博物館、恩賜上野動物園等の礎を築いていく……。
14歳の"なずな"は、行方知れずの父の無事を祈りつつ、神田花房町にある居酒屋「ともえ」で働いていた。美人女将のお蔦、板前の寛助とともに奮闘していたが、お客にお店に、思いもよらぬ騒動がーー。
人気女性作家による時代小説競演 己の腕で生き抜くおんな職人の矜持 真葛……京都の幕府直轄御薬園で働く女薬師 沙奈……亡き母の仕込みを継ぐ色酢の?造り職人 おりん……木肌の魅力に惹かれ根付職人に弟子入り 蕗……妹と峠の茶屋を切り盛りするそば打ち職人 市子……その身に霊を降ろす「口寄せ」を使う巫女 梅……身体のみならず心の凝りもときほぐす揉み屋 当代の人気女性作家が、己の生きる道を自らの 腕と業で切り開く女性職人の凛々しさを巧みな 筆致で活写した、傑作時代小説アンソロジー。 春雀二羽 澤田瞳子 藍の襷 志川節子 掌中ノ天 奥山景布子 姉妹茶屋 西條奈加 浮かれの蝶 小松エメル おもみいたします あさのあつこ
結び屋おえん、よろずのご縁結び〼。人情時代小説の精華、ここにあり! 不貞の濡れ衣で婚家を追われ、長屋で縁結び屋を名乗るおえん。旧友の再婚を調え、安堵した折に驚きの報せが。十年も行方知れずの息子・友松が帰ってきたのだ。若者へと成長した友松の背には目印のホクロが確かにある。が、おえんは我が子だと思い切れぬ何かを感じていた。江戸の人間模様を粋に描き出す、風味絶佳の時代小説。
突然縁談を白紙に戻されたおりよ。相手は小間物屋「近江屋」の跡取り息子。それでもおりよと父は近江屋へつまみ細工の簪を納め続けていた。おりよは悔しさを押し殺し、手に残る感覚を頼りに仕事に没頭する。どうしてあたしだけ?そもそも視力を失ったのは、あの花火のせいだったー(「闇に咲く」)。三河、甲斐、長崎、長岡、江戸を舞台に、花火が織りなす人間模様を描いた珠玉の時代小説。
「祝言は挙げられない」簪職人のおりよは、突然許婚の新之助にそう告げられた。理由はなんとなく思い当たる。新之助は形がよく、おりよは目が見えないから。二人で歩いていると耳の後ろが熱くなる。女たちの視線が痛い。どうして私だけこんなことにーー。悔しさを押し殺し、手に残る感覚を頼りに仕事に没頭するおりよだったが……(「闇に咲く」)。遊女、船問屋、紙問屋、簪職人、花火師、旅籠屋……市井の人情を掬い取る、珠玉の時代小説。
不貞を疑われて妻の座を追われ、独り住むことになった日本橋の芽吹長屋で、おえんはふとしたことから男女の縁を取り持つことになる。嫁き遅れた一人娘と絵の道をあきらめた男、ひどく毛深い侍と若い娘、老いらくの恋。遠慮のない長屋のつきあいにもなじむ頃、おえんの耳に息子の心配な噂が入ってくる…。人びとの悲しみと幸せを描く時代小説。
花鳥茶屋「せせらぎ」は上野不忍池に面したおよそ六百坪の敷地に、珍しい鳥を集めた禽舎や植物を配した行楽の苑であった。いかがわしさとは縁遠く、女子供にもたいそう受けがよい。子供のころ、手習いの師匠が語ってくれたさまざまな鳥の話に、足が痺れるのも忘れて幼馴染みたちと聞き入った勝次は、ここ「せせらぎ」で鳥かご職人の修業中だった。弟子入りして五年、仲間も皆、巣立ちの時を迎えようとしていた…。
芝神明宮のほど近く、「風待ち小路」には小さな店が集まっている。絵草紙屋の旦那は不甲斐ない息子に気をもみ、生薬屋の内儀は夫の女遊びに悩む日々だ。しかも近所に新しく商店街ができ、客足が遠のいている。そこで若い跡取り連中は、町のためにあることを企てるが…。直木賞候補にもなった、時代小説の逸品。
結び屋、それは人のご縁を繋ぐ業。無実の罪を着せられ、大店の妻の座を追われたおえん。悲しみの中で過ごすうち、ひょんなことから魚河岸の女仲買いと商家の若旦那の縁談を取り持つことに。でも商家の奥には、手ごわい姑が構えていて…。悲しみと幸せが降り積もる連作時代小説。
江戸吉原には、娘を花魁へと染めかえる裏稼業があった。その名も「上ゲ屋」「保チ屋」「目付」。うぶな時分に閨房の技を仕込み、年季半ばで活を入れ直し、常に女心を探り、間夫を絶つ。これら男衆と磨きぬかれた妓達が織りなす人生絵図を陰翳豊かに描く、連作七編。秘められし真心が静かに胸をうつ、傑作時代小説。
芝神明宮にほど近い「風待ち小路」にある絵草紙屋・粂屋のあるじ笠兵衛は四十八になるが、人気役者・岩井半四郎に似た二枚目で、商いにも色事にもまだまだ意欲を持っている。妾のお孝を、五年前に亡くなった女房の後添えにしようかと思案していた。一方、大人しくていまひとつ覇気が見えない跡取り息子・瞬次郎には物足りなさを感じているのだった。そんなある日、半襟屋のおちせが店を訪れ、瞬次郎と恋仲になっていくが…。粂屋父子とおちせを中心に、風待ち小路で暮らす人々のドラマが語られる。近くに新興の商店街ができ、商売に陰りの見える街の活性化のために店主世代と若旦那世代がそれぞれに素人芝居の計画を立てるが、その顛末は? また、瞬次郎とお互いに惹かれあいながらも躊躇いを見せる子連れのおちせが抱える意外な秘密とは? 男と女、父と子、母と子ーー様々な人間模様を情感豊かに描し、物語も起伏に富んだ連作時代小説の傑作です。
上ゲ屋、保チ屋、目付…吉原を陰でささえる異能の男たち。妓を遊女に仕立て上げ、年季半ばで磨き直し、合間にあって妓の心を見張り、間夫の芽を絶つ。裏稼業を通して色と欲、恋と情けの吉原を描き切った鮮烈なデビュー作。