著者 : 朝比奈弘治
夢に追われて夢に追われて
レーモン・クノー『文体練習』を手がけた名翻訳者/フランス文学者による、奇想の小説集。 パンデミック後の世界を描く傑作短篇から近未来ディストピア・フィクションまで、驚異とユーモアに満ち満ちた全16篇。 診察から帰ってきた鈴麗の声は弾んでいた。 「ミミタケなんだって。すごく珍しい、って感心してた」 「何、それ?」 「あのね、耳がキノコになるらしいよ。最初のあれ、真菌性のハナタケだったんだって。気がつかなくて申し訳なかったって頭を搔いてたけど、それが耳に来てしまったんだって。それでね、ハナタケがミミタケになったら、もう間に合わないんだって」 「何が?」 「だからさあ、ミミタケになったときは、もう脳の中に菌糸が入り込んでるの。だから治らないんだよ」(「KINOCCO-19」より) KINOCCO-19 Kの災難 虎の目 三途の湯 蕎麦殻の枕 クダアリの話 間男 千年劫 流されて 丘の上の桐子 門 妖怪池 軽井沢日記 思い出酒場 トーキョー・セレナーデ 最後のピクニック
ダラダラ
母親ダラが生前「ナタリーおばさん」と呼んでいた女性が殺害されたことに興味を持ったブリジットは、母親と親交のあった六人の人物を訪ねる。だが彼らの話を聞いていくうちに興味の中心は母親の生涯へと傾斜してゆく。-ダラはユーゴにチトーが凱旋してくる前夜に国を捨てた政治亡命者だった。混迷の時代を生きなければならなかった女性の過酷な生を慈しみをこめて描く長編。
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