著者 : 村上政彦
傷ついたこの世界を修復せよ!命の限りサヴァイヴせよ!ルーツを隠して妻に捨てられた「在日」の男と、小学生の息子に自殺されてホームレスになった片腕の男が出会った。瀬戸際の二人が修復とサヴァイヴァルの物語を始める。
女誰かの家の二階に集って織物、刺繍、縫い物、布鞋作りなど女紅と呼ばれる手仕事に従事する。そこで女書によって詠んだ詩を歌い、年配になれば自伝を書いて詠じた。女たちは、文字によって現実とは違う世界に遊び、苦しみや悲しみを発散した。彼女たちは苦しみや悲しみで縒った糸を文字にする。文字は涙である。詩や自伝という形式は、その涙を溜める袋である。彼女たちは、女書を習得することで涙の袋を抱え、そこに涙を捨てていたのだ。そして涙は笑いに変えられた。これは男性や親から抑圧され、不自由な身の上をかこつ彼女たちにとっては少なからぬ救いだった。
作品の舞台は福島県双葉町。原発事故で世界的に有名な土地だ。そこには十年経っても未だに帰還できない人々がいる。あの恐怖と惨事の中で生まれた人々の生活と人生を描いたのがこの小説だが、現実に起こった悲惨さを凌駕する作品を書くのはなかなかに難しい。だがこの小説は作家の才能と創造力がいかんなく発揮され、みごとに原爆の悲劇を捉えている。
中国・青島で日本軍に敗れ、徳島・板東に移送された捕虜約千名は、異国の地で不安と闘いながら、パン作りや畜産、フットボールや西洋音楽を教える。その青春の息吹が、日本人の心をも変えていく-「歓喜の歌」が初めて響いた四国の山河。ドイツ人と日本人の友情と禁じられた恋。
タクシーの運転手がこんな話をしていた。彼はカラオケバーで会った女から聞いたという…。ブティックの試着室で次々と消える少女たち、ガイジンたちの間で有名な古びたコインロッカー、そして、男を去勢する謎のウィルス…。あなたは今、増殖する噂の群れの先頭にいる。悪夢と祈りに満ちた都市のフォークロア六十余編。
非合法のプロ集団が、「噂」を使って暗躍するピカレスク・ロマン。選挙を策謀し、巨大企業を告発する「噂」。トレーラーで移動しつつ、「噂」を流していく無国籍の集団が、日本に存在する。現代の断面を鮮やかに切る中篇小説集。
ぼくを呼ぶ声がきこえるだろ?軽やかで、せつない新世代の心情を描いた青春文学の傑作誕生。最後の夏休み、ぼくはライオンを助け出すために、GFの五月を伴い、真夜中の動物園に忍び込んだ…。ニューエイジの心情を描く意欲的長編。
眼の前には雄大な青空があった。自分だけがぽつんとそこにいる-。だが、生きていくことは、とてもしんどい、けれど刺激的なエンターテインメントだ、と思いたい。家族の崩壊を前提にドラスティックに生きる高校生を描く期待の新鋭の中篇小説集。
子を捨てて自由な恋愛に生きる母親。女が女を愛してしまった果てのない自問。孤独な精神の無菌室を壊して再生をはかるまでの手記が三番目の父親へ託された。第104回芥川賞候補作、「海燕」新人文学賞受賞作を含む大型新人の第一創作集。