著者 : 梓澤要
武家に生まれた明恵は、八歳で父母を亡くし、十六歳で出家。その学才を見込んだ東大寺、神護寺などに背を向け、紀州白上山など人里離れた山奥で孤独に修行することを愛した。承久の乱で朝廷軍の敗残兵をかくまったが、その教えに打たれた幕府軍の総大将・北条泰時が後に帰依したという華厳宗中興の祖の葛藤と成就。
秀忠の五女・和子は、大坂夏の陣以来いまだ緊迫する朝幕関係の架け橋となるために、後水尾天皇に嫁ぐ。だが、後水尾は天皇家と公家の行動を管理し、政治的主導権を掌握する幕府に怒りを覚えていた。和子がようやく皇子を儲け、家康以来の将軍家の宿願が果たされるかと思えた矢先、皇子は早世してしまう。悲嘆にくれた後水尾は、紫衣事件をめぐる幕府への憤怒が収まらぬなか、ある決心をする。天皇家と将軍家の対立を超え、世の安泰に全身全霊を捧げた波乱万丈の生涯に迫る。
万葉歌人は、じつは恋愛下手でしたー。若い大伴家持から恋歌を贈られた年上女性の、理性と情熱の揺らぎを描く「年下の男」。夫に愛想を尽かした妻が出した結論「しゑやさらさら」。恋の歌が苦手な女の前に現れた庭を愛する男との、不意の出来事が胸を焦がす「恋の奴」。その他、下級役人の滑稽な同棲「紅はかくこそ」など全七編。歌人たちのおおらかで不器用な恋の一瞬を、みずみずしく描く傑作。
下鴨神社の神職の家に生を受けた鴨長明は、歌に打ち込み、琵琶に耽溺し、出世を望みながらも幾度となく挫折。源平争乱の時代に、大火事、大飢饉、大地震などを目の当たりにした後に五十歳で出家、山奥の一間の庵にこもる。不遇の半生と未曾有の厄災から悟ったこの世の真とは。八〇〇年の時を越え、普遍の価値観を湛える『方丈記』作者の波瀾万丈の生涯。
ひたすら彫る。彫るために生きる。それが仏師だ。全く新しい美を創造し、日本芸術史に屹立する天才運慶。その型破りな人生とはー。少年の頃、「醜い顔」と嘲られた運慶は、女の姿態や鎌倉武士の強靱な肉体に美を見出していく。快慶との確執、荒ぶる野心。棟梁として東大寺南大門の金剛力士像を完成させた絶頂期、病に倒れた。劇的な生涯を描ききる、本格歴史小説。中山義秀文学賞受賞作品。
平安時代半ば、醍醐天皇の皇子ながら寵愛を受けられず、都を出奔した空也。野辺の骸を弔いつつ、市井に生きる聖となった空也は、西国から坂東へ、ひたすら仏の救いと生きる意味を探し求めていく。悪人は救われないのか。救われたい思いも我欲ではないか。「欲も恨みもすべて捨てよ」と説き続けた空也が、最後に母を許したとき奇跡が起きる。親鸞聖人と一遍上人の先駆をなした聖の感動の生涯。
戦国の世に、井伊家の領主となり井伊直虎を名乗った女性がいた。天文13年、井伊家の当主・直盛のひとり娘の祐の運命は、その年を境に激変した。井伊家家老の裏切りにより、今川義元に謀反の疑いを持たれた、井伊直満と弟の直義が、駿府で生害させられたのだ。井伊家は、命を狙われる直満の子・亀之丞の秘匿を決行。許婚の亀之丞と引き裂かれた祐は、出家を決意し、次郎法師を名乗るがー。直虎の生涯を描いた傑作歴史長篇。
西行、平泉で藤原秀衡に邂逅す。内大臣頼長の密命を受け、遙か奥州平泉に向かった西行はかの地で若き藤原秀衡と出会う。末法の世に奇跡の王国を見た西行の胸に去来した想いとは。
家康を父に持つ於義丸は双子で生まれたため、忌避される。兄信康のとりなしで家康に息子として数年後に認知させた。しかし、秀吉の養子として徳川家を出され、豊臣秀康と名乗らされた。それも束の間関東の結城家に養子にだされ、父・家康の監視役とされる。家康が恐れた息子の短くも波乱の生涯を描く歴史巨編。