著者 : 槙由子
親友の恋人の城で開かれた仮装パーティで、リリーは巨万の富を持つスペイン侯爵、トリスタン・ロメロに出会った。抗い難い彼の魅力にとらわれ、城のはずれの塔で一夜をともにしたあと、それは単なる束の間の戯れだと冷たく宣告されてしまう。リリーは翌朝、彼が目を覚ます前に城をあとにした。ひと月半後、彼女は予想外の妊娠に気づく。この子はひとりで育てよう。でも、父親の愛を知らずに育った私と同じ思いは味あわせたくない…。妊娠を打ち明けたリリーのそんなささやかな願いを嘲けるように、トリスタンの冷たいブルーの瞳がリリーを射貫く。「認知をする条件は結婚ーいやなら子供との関わりは一切持たない」
ギリシア人大富豪の愛人となった母に連れられ、ルイーズは少女のころからよくエーゲ海の小島にある邸宅を訪れた。富豪の息子ディミトリは家庭を壊した彼女の母を憎み、冴えない娘のルイーズにいたっては目もくれなかった。彼の甘い言葉に誘われて身を捧げた、19歳のあの日までは。喜びも束の間、あなたは復讐の道具にされたのよと母に教えられ、ショックを受けたルイーズはお腹に宿った命にも気づかず、一刻も早く島から逃げようとボートに飛び乗ったのだった。7年後、ルイーズは重い病をわずらった母を助けるため、二度と会いたくなかったディミトリのもとへと向かう…。
砂漠の国の王妃となった姉に代理母になってほしいと頼まれ、クロエは国王夫妻の子アデンをひそかに出産した。だがその直後に夫妻が事故死し、事情を知る者がいなくなる。貧しい学生のクロエに子どもを育てる余裕などない。途方に暮れながら必死に赤ん坊の世話をしているところへ、代理母の契約書を発見したという亡き王の弟サイードが現れた。「契約どおり、子どもは我が国に属する」冷たく宣言する彼に、クロエは懇願した。乳母でも召し使いでもいい、甥と一緒にいたいと。まさかサイードの名目だけの妻にされるとは、思いもせず。
エマは、父親の親友の息子ザリオスと6年ぶりに再会する。彼は10歳年上のハンサムな企業経営者だが、悪名高いプレイボーイでもある。惹かれてはいけない人ーそうわかっていながら、彼の突然のキスには抗えなかった。ずっと抑えていた想いが溢れ、エマはすべてを捧げてしまう。彼との再会からほどなくして、むごい悲劇がエマを襲った。両親の事故死、そして兄がギャンブルで負った多額の借金が、いっきにエマにのしかかってきたのだ。それだけではない。彼女は、ザリオスと元恋人との復縁を新聞で知る。茫然自失のなか、エマは小さな命を宿していることに気づく。
3年前、父が作った多額の借金を肩代わりしてもらう見返りに、マクシーはやむなく祖父ほども年の離れた富豪の愛人となった。実は見せかけだけなのに、周囲からは白い目で見られる日々…。老富豪が病に倒れた今、妻に返済を求められたマクシーに、彼らの甥であるアンゲロスから悪魔のささやきがもたらされる。代理返済しておいたと告げ、欲望の瞳で代償を求めてきたのだ!金のために身を売る女と蔑まれた屈辱に震えながら、夫となる人にしか身は捧げないとマクシーが断ると、彼は言った。「結婚しよう。但し、公の場で妻と認めることはできないが」
あれはセリーナが15歳、ニコラスが18歳のときだった。卒業パーティの夜、ふたりは初めての幼い愛を確かめ合った。だが彼はイギリスへ留学してしまい、やがて連絡は途絶えた。幾年かが過ぎ、セリーナは愛娘とふたりで幸せに暮らしていた。ある日、娘がもたらしたニュースにセリーナは愕然とする。「ニコラス・デュプレが、わたしたちの学校に来てくれるの!」小学校のチャリティ・イベントのため、娘みずから手紙を書き、地元出身の世界的億万長者である彼に出演を依頼したのだという。ニコラスと、彼を招待した娘の対面は避けられないだろう。お互い、父と娘であることも知らないまま…。
生き別れた弟が無実の罪を着せられて逮捕されたと知り、アマリアは13年ぶりに母国カリージュの壮麗な宮殿を訪れた。執務室に迷いこんだ彼女は、玉座のような椅子に座る男性の琥珀色の瞳に射すくめられた。若き国王シーク・ゼインーその威厳に満ちた貴族的な美貌と尊大な言葉に圧倒されながら、アマリアはこれがゼインの花嫁選びの面接であることに気づく。事情を話して窮状を訴え、弟のためなら王国を脅迫することも辞さないという彼女に対し、ゼインは不快感もあらわに命じた。「君に選択肢はない。期間限定で王妃の役を務めてもらおう」
“君は僕のもの。僕の島へ来て妻となる。髪に花、首には宝石”ギリシア富豪レオンの言葉が、いま現実になろうとしている。9日前、看護師のタラは患者のレオンにいきなり唇を奪われた。ふたたび唇を奪われた夜、タラは我知らず結婚を承諾していた。しかしほどなく、巧みな口づけと愛撫の呪縛が解けると、タラは恥ずかしさで死にたくなった。彼女には婚約者がいた。レオンを避け続け、予定どおり結婚の日を迎えたタラだったが、何者かに拉致され、抵抗も空しくギリシア行きの船に乗せられた。いまだ花嫁姿のまま、レオンへの憎悪を胸にたぎらせながら。
ジェシカは父親から信じがたい話を聞かされ、頭を抱えた。雇い主から貴重な美術品を盗んだ疑いをかけられたというのだ。父は大富豪セザリオ・ディ・シルベストリのもとで働いている。このまま誤解を解かなければ、解雇されてしまうだろう…。実は2年前、ジェシカはセザリオに誘われ、食事をともにしていた。だがそのあと当然のごとくベッドへ誘ってきた彼に驚き、逃げだしたのだった。もう二度と会いたくなかったが、父の汚名を晴らすため、ジェシカは勇気を振り絞って彼を訪ねた。セザリオは相変わらず傲慢な笑みを浮かべると、こう言い放った。「父親を許そう、僕の跡継ぎを産むという取引に応じるなら」
母親の押しつける結婚から逃れる手助けをしてほしい。広告代理店に勤めるローラは顧客からそう懇願され、言われるままに恋人を装って、イタリアを訪れた。ローラを待っていたのは、息子の恋人に敵意を抱く母親と、滞在先の館の主で、顧客の従兄にあたるラモンテッラ伯爵だった。伯爵は到着直後から何くれとなくローラの世話をやき、観光へも連れだしてくれた。黒い瞳に黒い髪。なんて神秘的なの?すっかり伯爵に夢中になったローラは彼の誘惑の罠に落ちるが、彼女がバージンだと気づいた伯爵にベッドから追いだされてしまう。いったいなぜ?伯爵の企みを知らないローラは困惑し…。