著者 : 母袋夏生
迷宮のような路地で見つけた写真集、不死の老人、ショアの記憶、聖書物語など、イスラエル文学紹介の第一人者による日本語版オリジナル・アンソロジー。ウーリー・オルレブ(国際アンデルセン賞受賞)、シャイ・アグノン(ノーベル文学賞受賞)など、世界が高く評価する作家の傑作を精選。
行き場のない青年の鬱屈した現実を描き、イツハク・ラビン首相暗殺を予見したと評される表題作のほか、ユダヤ人の聖地を海岸に移設する顛末譚「嘆きの壁を移した男」、2048年にヒトラーとアンネ・フランクのアンドロイドが遭遇する「もうひとつのラブストーリー」など、エトガル・ケレットと並び、イスラエル屈指のストーリーテラーと評される作家の短篇を精選した日本語版オリジナル短篇集。過酷な過去と現実を生きる若者たちの諧謔とペーソスに満ちた優しき世界。
自殺者だけが集まる世界でかつての恋人を探すハイムは、親友アリとヒッチハイカーの美女リヒとともに旅に出る。やがて行き着いたのは「意味のない奇跡」に満ちたサマーキャンプだった…。中篇代表作のほか、かつて月に住んでいた人々、作家の才能を奪いにくる悪霊、付き合った女性たちの写真をある家で発見する男、きらきら光るものが好きな女の子、バスに乗り遅れた客にドアを開けない運転手、美術館に飾られた美しい子宮、地獄から湧きでる人々など、意表をつく設定で人間の本質をとらえた数多の物語を紡ぎだすイスラエル人作家の日本語版オリジナル作品集。人気作家の31の中短篇。
人の言葉をしゃべる金魚。疲れ果てた神様の本音。ままならぬセックスと愛犬の失綜。嘘つき男が受けた報い。チーズ抜きのチーズバーガー。そして突然のテロー。軽やかなユーモアと鋭い人間観察、そこはかとない悲しみが同居する、驚きに満ちた掌篇集。映画監督としても活躍する著書による、フランク・オコナー国際短篇賞最終候補作。
明けがた5時、ブルーリアが、死んだ。ハイファでモルヒネ注射を打たれて、3時間後に意識不明のまま病院にかつぎこまれてから、1週間後のことだった。白い、こまかな雪が降っていた。ゲルティは窓のほうに目をやって、うれしそうな顔をした。「ねえ、スイスそっくりよ」そういって、彼女は微笑んだ。「イスラエルにも雪が降るなんて、今まで知らなかったわ」…深夜の精神病院でアルバイトをする主人公と、美しく謎めいた女性患者ブルーリアとの密やかな交感を描く表題作のほか、「パレルモの人形」「国境の少年」「薬剤師と世界救済」「真夜中の物語」など、英国統治下の古都エルサレムを舞台に、静謐な日々の記憶の底に潜む悲哀や喜びを、不思議なユーモアを交えて綴る珠玉の短篇の数々。イスラエルを代表する作家シャハルの傑作を精選した本邦初の作品集。仏メディシス賞外国文学賞受賞。
崩壊した旧ソ連邦から大量に流れ込む移民、社会問題化する若者たちの薬物依存、世界に張り巡らされたユダヤ・コネクション…湾岸戦争下のイスラエルを舞台に描かれた、大型女流作家の日本デビュー作。
ユダヤ民族離散の過程で死語と化していたヘブライ語を日常語として再生させ、故国再興への道を開いたエリエゼル・ベン・イェフダとその家族の苦闘を長男ベン・ツィオンの目から描いた異色のセミドキュメント。本邦初訳。