著者 : 江戸川乱歩
探偵作家の寒川に、資産家夫人、静子が助けを求めてきた。捨てた男から脅迫状が届いたというが、差出人は人気探偵作家の大江春泥。静子の美しさと春泥への興味で、寒川は出来るだけの助力を約束するが、春泥の行方はつかめない。そんなある日、静子の夫の変死体が発見された。表題作のほか、愛する女に異常な執着を示す男の物語、「蟲」を収録。男女の情念を描いたベストセレクション第4弾。
世の中の全てに興味を失った男・郷田三郎は、探偵・明智小五郎と知り合ったことで「犯罪」への多大な興味を持つ。彼が見つけた密かな楽しみは、下宿の屋根裏を歩き回り、他人の醜態をのぞき見ることだった。そんなある日、屋根裏でふと思いついた完全犯罪とはー。表題作のほか、とある洋館で次々起こる謎の殺人事件を描いた「暗黒星」を収録。明智小五郎登場のベストセレクション第3弾。
大正末期、大震災直後の東京にひとりの異才が登場、卓抜な着想、緻密な構成、巧みな語り口で読者をひきこむ優れた短篇を次々と発表していった。日本文学に探偵小説の分野を開拓し普及させた江戸川乱歩(1894-1965)の、デビュー作「二銭銅貨」をはじめ「心理試験」「押絵と旅する男」など代表作12篇を収録。
時子の夫は、奇跡的に命が助かった元軍人。両手両足を失い、聞くことも話すこともできず、風呂敷包みから傷痕だらけの顔だけ出したようないでたちだ。外では献身的な妻を演じながら、時子は夫を“無力な生きもの”として扱い、弄んでいた。ある夜、夫を見ているうちに、時子は秘めた暗い感情を爆発させ…。表題作「芋虫」ほか、怪奇趣味と芸術性を極限まで追求したベストセレクション第2弾。
貧しい椅子職人は、世にも醜い容貌のせいで、常に孤独だった。惨めな日々の中で思いつめた男は、納品前の大きな肘掛椅子の中に身を潜める。その椅子は、若く美しい夫人の住む立派な屋敷に運び込まれ…。椅子の皮一枚を隔てた、女体の感触に溺れる男の偏執的な愛を描く表題作ほか、乱歩自身が代表作と認める怪奇浪漫文学の作品「押絵と旅する男」など、傑作中の傑作を収録するベストセレクション第1弾。
『盲獣』いつにない早起き、ありふれた日常だったはずの朝が始まる。雨に降りこめられた展覧会場で、森厳な空気に相容れぬ雰囲気を醸す人影を見た水木蘭子は、凶事の予感に怖気をふるう。それは魅入られたかのように盲獣の魔手に搦め取られていく自身への哀歌にも似て…『地獄風景』旧家の一人息子が私財を蕩尽した大遊園地ーさながら怪奇のおもちゃ箱ーに集まる、名にし負う猟奇の紳士淑女たち。ひとり、またひとりと増える犠牲者を後目に殺人遊戯はエスカレートしていく。「犯人は誰か、その理由は」と公募された犯人当て懸賞小説。共に竹中英太郎画伯の華麗な挿絵を付す。
絶海に行方定めぬ小船が一艘、瀕死の有明男爵と忠臣久留須左門、そして親友と謀り内心で男爵を憎む大曾根五郎が飢渇に喘いでいた。もはやこれまでと己が妻と財産を友に託す男爵。だが一夜明けて陸影を認めた途端、本性を現わした大曾根は二人を手に掛け、まんまと男爵の後釜に据わる。それから二十数年、飛行競技大会で超絶技巧を披露する二青年があった。それと知らず出逢い宿業の仇敵と認めあうに至る二人こそ、有明と大曾根を継ぐ者である。正義を旗幟に掲げる貴公子と、帝都に大暗室と呼ぶ王国を築き全世界の覇者たらんと欲する地底魔との凄絶な戦いの火蓋が切って落とされた。
片山里の湖畔亭、草鞋を脱いだ男がひとり。旅のお供はからくり眼鏡、風呂場に仕掛けて悦に入る。ある夜目にした光景に、心乱れて気は差して…警察も匙を投げた世にも不思議な「A湖畔の怪事件」とは。五年間の沈黙を破って、湖水の底に葬られた真相を吐露する手記。作品を巡る多彩なエピソードで知られる『一寸法師』を同時収録。連載時の挿絵に乗せて、往時の感興を再び。
実業界の大物、相川操一の娘、珠子は東京で一二を競う美貌の持ち主、そしてその兄、守は探偵好きの大学生だった。だが、その平和な家庭にある日突然、災いが降りかかってくる。大女優、春川月子を惨殺した「赤いサソリ」が、魔の手を珠子に伸ばしてきたのだ。神出鬼没の殺人鬼に対する名探偵三笠竜介は、しかし再三、敵に苦汁を呑まされる。果たして、最後に笑う者はどちらか?
グラスが二つ載ったテーブルを挾み、対峙する二人の男。夏の末以来、塩の湯A旅館に居つづけの湯治客だ。それぞれの懐に自殺の遺書を用意し、どちらかに毒の入ったグラスをあおって、生き残ったほうが美しい未亡人を手に入れよう、という奇妙で恐ろしい決闘の真っ最中だった。無気味な唇のない骸骨男の飽くなき執念が、奇々怪々な事件を引き起こす。明智と吸血鬼の壮絶な闘い。
新聞がバラバラ殺人事件を報じていた朝、探偵小説作家の星田は雑誌記者の津村を相手に、“完全なる犯罪”などというものはこの世に存在しないとの論陣を張って深夜に帰宅すると、「貴下の“完全なる犯罪”なしとの説に対し、人間の手により“完全なる犯罪”の計画を遂行する。充分の研究により犯人を突き止められよ」の文字通りの挑戦状が届けられていた。新潮社が昭和7年に刊行した全作書下ろしの『新作探偵小説全集』の付録として発行された『探偵クラブ』に連載された「殺人迷路」は、乱歩をはじめ10作家により書き継がれて本格物として結末づけられている!はたして“完全なる犯罪”は可能なのか…。他に、『講談倶楽部』昭和29年9月増刊号に一挙掲載の「悪霊物語」を併収した。
東京の大宝石商の一家を恐怖のどん底へと突き落とす無気味な数字の通信。日一日と減っていくその数は、いったい何を意味しているのか。一家に異常なまでの復讐心を抱く怪人〈魔術師〉とは何者?玉村家からの依頼を受けて保養先から帰京するなり、賊の手にかかって誘拐された名探偵明智小五郎の運命やいかに。壮絶な結末に至るまで、息つく間もなく展開される波乱万丈の物語。
とある貸事務所の十三号室を借り受けた奇妙な紳士。彼は、さっそく新聞に女事務員募集の記事を出し、応募者の中からひとりの美女を選び出すと自宅に連れ帰り、刃物類が転がる不気味な風呂場へと案内するのだった…。かくして、東京中を震撼させる恐るべき事件が続発する。この残虐な殺人鬼に対するは民間の犯罪学者畔柳友助。雑誌連載時に大好評を博した、手に汗握る長編推理。
金色の虹を描いて、白い月光の中を跳ぶ「黄金豹」。宝石を喰い、札束をかすめ、幻のごとく消えてしまう魔豹に、人々は慄然とする。園田家に収蔵された、豹の美術品の数々。「八方にらみの豹」と名付けられた一枚の日本画より抜け出した魔豹は、黒メノウと青ダイヤを嵌めこんだ金の豹を狙って、闇の中をしのびよって来る。
美しい秘書との結婚を夢みる商事会社社長は、逆上した妻を誤って殺してしまった。友人の商業美術家と自分の妹との結婚に反対する売れない絵かきは、泥酔している。その夜、神宮外苑の十字路で二つの運命が交錯した!売れない絵かきと瓜ふたつの私立探偵・南が、運命の糸をあやつり始める!
私は貿易会社の美しい同僚木崎初代との恋に燃えあがっていた。ところが初代が殺され、素人探偵の友人も同一犯人の手にかかったことから私は復讐を誓った。私に好意を寄せる医学生の諸戸道雄は、初代が大切にしていた家系図を見ると、気味悪そうに自分の出生を語った。そして郷里の島へ2人は旅立つたー。