著者 : 江田さだえ
“眠れる美女”との結婚が許される条件はー真実の愛。時は1852年。イングランドの北の果て、ノーサンバーランドに、美貌と気品と富を兼ねそなえた“眠れる美女”が隠れ住むという。ロンドンで放蕩三昧に明け暮れる伊達男アダムは興味を持ち、その娘レディ・ヘレナ・ラスフォードに求婚しようと思い立った。ところが行ってみると、ラスフォード邸は暗く荒れ果てた屋敷で、当の“眠れる美女”はやせたみすぼらしい娘だった。はじめは使用人と見間違えたが、よく見ると美しく不思議な魅力がある。求婚は彼女の父に受け入れられたが、結婚に条件がつけられたー娘を放っておかず、やさしく接し、子を作るべく夫婦の契りを結ぶこと。アダムは確信が持てぬまま、気づけば答えていた。「約束します」
天涯孤独のケイトは名家に生まれながら困窮を極め、働きに出るよりほか、もう生きるすべはなかった。ある日、亡き母の名づけ親だという年老いた伯爵夫人が訪ねてきて、みすぼらしいケイトを見るや、孫息子ジャックの邸へ連れていった。社交界一の美貌を誇るジャックは戦傷を負い、今は隠遁生活を送っている。私が連れてこられた理由はわからない。でもここで仕事が見つかれば…。そう願ってケイトが床を磨いていると、そこにジャックが現れた。「ふざけるんじゃない!勝手に私の屋敷の床を磨くとは、何事だ!」怒りの声をあげたジャックは彼女の手をつかみ、じっと見つめた。ブラシの赤い跡がついた掌を恥じ、ケイトは思わず手を引いたがー
華やかなりし時代、紳士とレディの秘めた想いはー。人気作家の豪華競演による、ヒストリカル短編集。19世紀英国ー退屈な毎日に辟易していた公爵ペイガンは、友人にけしかけられてある賭に乗った。お堅いと噂の娘スコラスティカを落とせたら勝ち、というものだ。社交界で数々の浮名を流してきたペイガンにとっては、ごく容易い遊びのはずだった。だが普段接する女性たちとはまったく違う純粋なスコラスティカを前に、いつしか調子を狂わされて…。D・シモンズ『不良公爵の賭』ほか、放蕩侯爵との恋を描くN・コーニック『放蕩者の求婚』、切なさあふれるJ・ジャスティス『君にすべてを捧ぐ』を収録した珠玉のアンソロジー。
修道院に閉じ込められ、長らく世間と隔絶していたノルマン貴族の娘メアリアン。だが彼女はその、花をもあざむく美貌のせいで、兄の計略により、好色な老人公爵に妻として今まさに献上されようとしていた。このままでは非情な兄に利用され、操り人形になるだけ…。思いつめたメアリアンは、その夜、幽閉されていた部屋を抜けだす。ところが、あと一歩のところで、男性の居丈高な声が響き渡ったのだ。「君は誰だ?」顔を蒼白にして震えながら振り返ると、あろうことか兄の客人、氏族長の子息アデアが眼光鋭く立ちはだかっていた。
1789年英国。孤児のプルーデンスは、冷たい雨が降りしきるなか、宝物のブローチだけを手に、南を目指して歩いていた。人使いの荒い北部の紡績工場から逃げ出して、もう3日。追ってくるかもしれない監督官の目をあざむくため、かかしの服を拝借し、腰まであった髪も切った。そんな折、ひょんなことからウェントワース卿セバスチャンと出会い、世にも恐ろしげな追いはぎから救われたうえに、食事と服も与えられる。自分が薄汚れた少年のようななりをしていたにもかかわらず、女性だと気づいたという彼に、ブルーデンスは胸のうずきを覚えた。高貴な身分のセバスチャンに恋する資格など、あるはずもないのに…。
伯爵令嬢のオクタヴィアは亡き伯母からロンドン郊外の屋敷を相続する。遺言状には屋敷を伯母の知人バラクラフ家に半年貸すとも記されていて、彼らが到着する前に見ておこうと、彼女は現地へ向かった。だが、そこにはすでに先客がいたー大富豪エドワード・バラクラフ。とてもハンサムだけれど、あの険しい表情はまるで“鬼”だわ!しかも、彼女はエドワードに家庭教師志望の女性と勘違いされてしまう。どうやら彼は慣れない姪たちの世話に困っているようだと気づき、オクタヴィアは自分の素性を明かさぬまま、この魅力的な“鬼”に雇われることにするが…。