著者 : 池澤夏樹
ある日、難民になる。「新しい故郷」を求めて、歩きだす。そんなに遠い世界の話ではないのです。シリアで、クロアチアで、アフガニスタンで、満洲で、生きのびるために難民となった、ふつうの人たち。その姿と心を、てのひらで触れるようにして描きだす。
世界文学の巨人が創出したアメリカ南部の伝説の地ヨクナパトーファの全貌を明かす究極の小説選。作家をノーベル賞に導いた奇跡の作品集を最強の翻訳陣による画期的新訳で。
暴君であると同時に、偉大な国家建設者。実在した天皇とされる21代雄略の御代は、形のないものが、形あるものに変わった時代。私たち日本人の心性は、このころ始まった。『古事記』現代語訳から6年、待望の小説が紡がれた。
石狩湾で坐礁した、五千トンの貨物船。忽然と砂浜に現れた非日常的な巨体に魅せられ、夜、独り大型テレビでその姿を眺めていると、「彼」の声がした。友情と鎮魂を描く表題作と、県外の避難先から消えた被災者の静かな怒りを見つめる「苦麻の村」、津波がさらった形見の品を想像力のなかに探る「美しい祖母の聖書」ほか、悲しみを乗り越える人々を時に温かく時にマジカルに包み込む全9編。
人生でひとつ間違いをしたという言葉を遺し、父は死んだ。直後、美汐の前に現れた郵便局員は、警視庁を名乗った。30年にわたる監視。父はかつて、国産原子爆弾製造に携わったのだ。国益を損なう機密資料を託された美汐は、父親殺人の容疑で指名手配されてしまう。張り巡らされた国家権力の監視網、命懸けの逃亡劇。隠蔽されたプロジェクトの核心には、核爆弾を巡る国家間の思惑があった。社会派サスペンスの傑作!
巨大な波が押し流した町、空が落ちて壊れた土地ー災厄に見舞われた沿岸へ、舳先と艫が同じ形をした小さなフェリーは、中古自転車と希望を載せて進む。失恋したての青年、熊を連れた男、200人のボランティアと小動物たち。そして被災地では、心身を傷めた人々を数限りなく受け入れながら。東日本大震災の現実をつぶさに見つめた著者による被災地再生への祈りに満ちた魅惑の物語。
神々の島、ハワイイに魅せられた人々が夢をつむいだ一軒の屋敷。そこに交差した青春を、ほろにがく回想する入魂の掌編小説。海の写真家、芝田満之の至福の映像とが織りなすファンタジーの世界。
受け取る人が必ず訪ねてくるという不思議な絵ハガキを作る「絵ハガキ屋さん」、花火で「空いっぱいの大きな絵」を描いた黒い鞄の男などの個性的な人々とティオとの出会いを通して、つつましさのなかに精神的な豊かさに溢れた島の暮らしを爽やかに、かつ鮮やかに描き出す連作短篇集。第41回小学館文学賞受賞。
南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。
漂着した南の島での生活。自然の試練にさらされ、自然と一体化する至福の感情。それは、まるで地上を離れて高い空の上の成層圏で暮らすようなものだった。暑い、さわやかな成層圏。やがて、夢のむこうへの新しい出発が訪れるー青年の脱文明、孤絶の生活への無意識の願望を美しい小説に描き上げた長篇デビュー作。