著者 : 浅羽莢子
パラディスで学ぶためにやってきた青年ラウーランが下宿したのは、凋落した貴族デュスカレ家の屋敷。老婆と馬丁しかいないはずのその屋敷で、ラウーランは美しい娘の幽霊を見る。若くしてこの家に稼ぎ、葬られた娘が語る、呪われたデュスカレ家の物語。遥かローマ時代に遡る悲劇の萌芽。退廃と背徳の都パラディスに潜む恐るべき影。闇の女王が織りなす、奇怪で蠱惑的な幻想譚。
退廃と背徳の都パラディス。この地において男女の別に、いかなる意味があろうか?詩人が手に入れたスカラベの指輪の秘密。両性具有の吸血譚「紅に染められ」。昼間は修道院で働き、夜は少年の姿で悪行のかぎりを尽くす娘。悪魔崇拝を描いた「黄の殺意」。謎の死をとげた美貌の役者が魅入られたこの世ならぬ存在とは。「青の帝国」。幻想の都パラディスを舞台にした中編3編収録。
ロンドンの法律事務所の書類金庫の中からある日、外遊中のはずだった顧客スモールボーン氏の遺体が発見された。事務所で煙たがられる存在だった共同管財人の彼を、なぜ、いつ、誰が、ただでさえ人目に付く事務所の中で、それも開閉に多くの鍵を必要とする面倒きわまりない金庫に、どうやって詰め込んだのか?チャンドラーの法律顧問でもあった英国の弁護士作家が、さりげないユーモアを込めて描き出した人間パズル。二十世紀ミステリの黄金時代を代表する正統的本格派ミステリの本邦初訳登場。
19世紀後半のイングランド。ケンブリッジ大学で歴史を教えているコーティンは、旧友に招かれ、大聖堂のある町サーチェスターに住む彼のもとを訪れた。コーティンがここに来た目的は、もうひとつあった。アルフレッド大王に関する貴重な史料が大聖堂の附属図書館にあることがわかり、それを調べたいと思っていたのだ。その夜、彼は旧友から、大聖堂で250年前に起きた殺人事件と、その被害者が今、幽霊になってさまよっているという話を聞く。その殺人事件はいまだに解決していなかった。コーティンは興味を抱くが、数日後、知り合いになったばかりの老銀行家が何者かに殺されるという事件が起きた。やがてコーティンは、過去の殺人と現在の殺人が織りなす悪夢のような迷宮の世界に踏み込んでいく…。趣向を凝らした構成と、幾重にも重なる謎。騒然たる話題を呼んだ『五輪の薔薇』の著者が放つ知的興奮に満ちたミステリ。
心はいつも朗らかながら経済観念まるでなしのランプリイ家は、何度目かの深刻な財政危機に瀕していた。頼みは裕福な親戚の侯爵ゲイブリエル伯父だけ。ところがこの侯爵、一家とは正反対の吝嗇で狷介な人物、その奥方は黒魔術に夢中のこれまた一癖ある女性。援助を求めた一家の楽観的希望もむなしく、交渉は決裂、侯爵はフラットをあとにした。ところが数分後、エレベーターの中で侯爵は、眼を金串でえぐられた無惨な死体となって発見された。わずかな空白の時間に犯行が可能だったのは誰か?はたしてこの愛すべき一家の中に冷酷非情な殺人者がいるのだろうか-?魅力的な英国貴族の人物造型と流麗な情景描写、巧みなトリックが融合したマーシュの代表作。
「蠅がいない。蠅抜きでどうして、中世のギルドが運営できるんだ。」セーラとマックスの旧友リディアが、目下職を得ている美術品修復業者、その名も“復活の人”。これが実に怪しい男で、職人たちに珍妙なルネサンス画家の格好をさせるかと思えば、仕事に際しては極端な秘密主義を敢行。おまけに彼の周囲では、過去何人もの人間が謎めいた死を遂げているらしい。折りしも彼らが甦らせた品々が相次いで盗まれ、殺人事件までが発生してしまう。陰には常に、赤いジョギング・スーツ姿の人影が…。骨折リハビリ中のマックスも奮闘する好調第十弾。
年老いた脱獄囚がアパラチア山脈近くの故郷へ向かっていた。保安官のスペンサー、保安官助手志願のマーサらが追い始めるが、その矢先、奇怪な事件が続発する。折りしも、二百年前の事件を調べるため、若い男が山道に踏み入るが…いくつもの運命が絡み合い、やがて緊迫の結末へ。アンソニー賞、アガサ賞、マカヴィティ賞の最優秀長篇賞を受賞した注目作。
ジェーンはためいきをついた。せっかく女二人になれたというのに、娘のケイトときたら朝寝はする、バイトはする、そのあとだって門限一秒前までお出かけくださる。弱気の虫がうずいたそんな折り、ジェーン自身の母親が遊びにやってくる。滞在中、つきあって自分史執筆の講座を受けることにしたが、思いがけず毒殺事件が勃発し…。主婦探偵が生きがいと殺人犯を探索する第三弾。
癌で余命いくばくもない往年のTVスター、フィンキー・リンキー。その彼の前に“死”そのものが現われ、死者を蘇らせる奇怪な力を授けてゆく…いっぽう世界的な女優だったアーレンは、ひょんなことから巡り会った一人の戦場カメラマンに真摯な恋心を抱くようになるのだが…ふたつの物語が交錯するとき、明らかにされる衝撃の真実とは。死という永遠のテーマに挑む鬼才、愛と死の錬金術師キャロルがおくる感動の最新傑作長編。
裁判官による説示。被告人ハリエット・ヴェインは恋人の態度に激昂、袂を分かった。最後の会見も不調に終わったが、直後、恋人が激しい嘔吐に見舞われ、帰らぬ人となる。医師の見立ては急性胃炎。だが解剖の結果、遺体からは砒素が検出された。被告人は偽名で砒素を購入しており、動機と機会の両面から起訴されるに至る…。ピーター卿が圧倒的な不利を覆さんと立ち上がる第五弾。
騒々しかった休戦記念日の晩、ピーター卿はベローナ・クラブを訪れた。戦死した友人を悼む晩餐会に出席するためだったが、なんとクラブの古参会員、フェンティマン将軍が、椅子に坐ったまま死んでいる場に出くわしてしまう。しかもことは、由々しき問題に発展した。故人には縁の切れた妹がいた。資産家となった彼女は、兄が自分より長生きしたならば遺産の大部分を兄に遺し、逆の場合には被後見人の娘に大半を渡すという主旨の遺言を作ったいたのだが、その彼女が、偶然同じ朝に亡くなっていたのである…。謎が転調に転調を繰り返す長編第四弾。
殺人の疑いのある死に際会した場合、検視審問を要求するべきか否か。とある料理屋でピーター卿とパーカー警部が話し合っていると、突然医者だという男が口をはさんできた。彼は以前、診ていた癌患者が思わぬ早さで死亡したおり検視解剖を要求したが、徹底的に分析にもかかわらず殺人の痕跡はついに発見されなかったのだという。奸智に長けた殺人者を貴族探偵が追つめる第三長編。
なにか、おかしい。壁にかかった懐かしいこの写真も、愛読していたベッドの上のこの本も、覚えてるのとは違ってる。まるで、記憶が二重になってるみたい。そう、ことの起こりはたしか十歳のとき。大きな屋敷にまぎれこんだら葬式をやってて、そこでひょろっとした男の人、リンさんに出会って、そして、なにかとても恐ろしいことが始まって…少女の成長と愛を描く現代魔法譚。
「ドルフから聞いてないんですね。施設の拡張計画のこと」セーラの従兄夫婦が創設した高齢市民リサイクル・センターに、下宿屋を付設し、困っているお年寄りに提供しようという企画が持ち上がった。ところがその折も折、センターの会員が殺され、所持していた紙袋からヘロインが見つかるという事件が発生する。一族挙げての探偵騒動が始まる中、セーラは出産寸前。好評第七弾。