著者 : 浅野里沙子
三軒茶屋から世田谷線で数駅、裏路地にひっそりと佇む『藤屋質店』の特徴は、今どきの高級ブランド品だけでなく、骨董の類いが持ち込まれる機会の多いことだ。店主の健三郎がかつて骨董店にいたことがその理由である。そのため、涼子が美術館の学芸員の仕事を辞め見習いで入った時から、質屋の商いで持ち込まれる宝飾品やブランド品に加え、骨董類についても対応できるようにと、様々な品物について勉強させられている。ひとりで接客する際は、その成果をいやでも試されるのだが、それは涼子の前職での経験と似ていた。目利きの元学芸員が織りなす優美な連作ミステリ。
ジュエリーデザイナーの飛龍冬鹿(32)は、5年前、骨董商の父を不可解な事件で亡くした。かつては海外で華々しく活躍した冬鹿だが、父殺害の嫌疑をかけられて全てを失い、秘書の達木一郎(29)とふたり麻布の実家で世を忍ぶように暮らしている。骨董と宝石の仕事を淡々とこなしながら、父の仕事の手がかりを探る冬鹿。その並外れた審美眼で、蒐集家たちが差し出す美と謎の真偽を見極めていくー。圧巻の書き下ろし連作小説!
鬼無里が、消える…。民俗学者・蓮丈那智と助手の内藤三國は差出人不明のメールを受け取り、かつて訪れたH村に思いを馳せる。5年前、鬼の面をつけ、家々を練り歩く神事の最中、殺人事件が起きたのだった。誘われるようにふたたび向かった村では、ある女性が待っていたー。著者急逝から6年、残された2編と遺志を継いで書かれた4編を収録。歴史民俗ミステリ、堂々たる終幕!
前髪立ちの十六歳にして、御探し物請負屋の看板を掲げる文平。蒔絵の文箱、消えた盆栽…失せ物に篭められた人の想いまで取り戻すのが文平の信条。助っ人は二枚目の哲哉とごつい岩五郎の部屋住みの二人。文平が探し物に躍起になる理由は、二年前の桜の宵の出来事にあった。
門外不出の奇書『天鬼年代記』が秘めた山村の闇。奇怪な祭祀・鬼哭念仏に潜む巧緻なトリック。都市に隠された「記号」から浮上する意外な真相ー。単行本未収録作、幻のプロットに基づく書下ろしを含む、六つの事件。氷の美貌と怜悧な頭脳、蓮丈那智が帰ってきた!民俗学ミステリー。
明治時代に忽然と消失した村が残した奇妙な文書は、邪馬台国の真相へと至る秘録だった!異端の民俗学者・蓮丈那智の手に渡った「阿久仁村遺聞」。仲間たちとそこに隠された深い謎を追ってゆくうちに、数々のキーワードが浮かんできた。銅鏡、鬼、殺戮、たたら製鉄、出雲大社…。ミステリがすべて解かれたとき、現代まで秘められていた真の日本史が、あなたの眼前に現れる。
美しきヒロインが活躍する新書き下ろし時代小説登場!武家の家に生まれ、聡明で身体能力にも優れていた結衣は藩では隠密を務めていた。しかし五年前、何者かにより一夜にして家族を皆殺しにされ、江戸に逃げてきていた。隠れて仏壇師の見習いをしていた結衣が、あるきっかけから事件について調べ始めると、藩の中枢にいる人間たちによる不正の数々が明らかになってきた。抜け荷に加担している者たちを探ることが、家族の惨劇の真相に繋がると信じ、仲間たちと核心に迫っていく結衣。しかし、敵に襲われ斬り合いとなる。仇を討とうとする結衣の願いは通じるのか。長編書き下ろし時代小説。
蓮丈研究室に舞い込んできた手書きの古書「阿久仁村遺聞」。村の伝説や民話めいた挿話の数々は、鏡のモチーフに彩られつつ奇妙につながりを欠き真意も編まれた目的も不可解だったー。明治初期に地図から消えた村、隠蔽された惨殺事件、暗躍する怪人物。那智の推理が、村の来歴と「邪馬台国」の実像を射抜く時、古代から現代まで、歴史の闇を貫く「もう一つの日本史」が現前する。著者の絶筆が、その遺志を継いで遂に完成。