著者 : 皆川博子
文化文政時代。ただひたすらに「己だけの女」を求めて、美人画に枕絵に絵筆をふるう浮世絵師・渓斎英泉。お津賀、おたま、おりよ、三人の妹の「生」をも搦めとった果てに見出したのはー。爛熟の江戸を舞台に、絵師の凄まじいまでの業と妹たちの情念が濃艶に花開く。
絶世の美貌と才気、そして妖艶極まる頽廃美で絶大な人気を博した女形、三代目澤村田之助。江戸から東京へと世情がゆれ動く中、不治の病に侵され四肢を失いながらも舞台に立ち続けた、壮絶なる人生とはー。こよなく淫蕩、こよなく凛乎、こよなく高慢。稀代の役者の芸への執念を流麗に描き上げた傑作長篇。
現実の凍土に震える者よ。六花の結晶よりも儚げな、肉の器を持つ者よ。皆川博子の祝福を受け入れるがよい。彼女の吐息は、夢幻の精霊。夜の帷にも似た抱擁と、甘やかな痛みとともに、色の無い世界も染まりゆく。唇は情念よりも朱く、血は薔薇よりも青く、死は詩のように色づいて…。儚げな、肉の器を持つ朋よ。やがて知ることになるだろう。自分の内側に注ぎ込まれたものの真の意味を。著者初の時代小説「十五歳の掟」を含む表題作、江戸民衆の情念を炙り出した「朱紋様」の2冊に加えて、単行本初収録の連作短篇を併録。
時は16世紀。スコットランドに生まれたアランは、17歳で戦士集団に加わり、アイルランドに渡る。そこで出会ったのは、海賊を生業とするオマリーの氏族の猛々しい男たちと、赤い縮れ毛の首領の娘グラニュエル・オマリー(グローニャ)。アランはグローニャの従者となり、闘いと航海に明け暮れる波瀾の日々が始まった。壮大なスケールで描く、実在の女海賊の凄まじき生涯!
女王エリザベスが統治するイングランドはアイルランドへの属国支配を強める。だが、氏族は内輪もめを繰り返し、団結することができない。息子をイングランドに捕縛されたグローニャは、彼の釈放と冷酷な行政官の解任を要求すべく、ロンドンに向かう。相対する“二人の女王”。グローニャに従い続けたアランを待ち受ける運命とはー。海洋冒険歴史巨編、圧巻の終演!
わらべ唄をモチーフに幻想的な8つの世界を描いた表題作、艶やかで妖しい10篇を収めた「妖笛」、単行本初収録の短篇「あやかし幻想奇譚」シリーズも収録。 そのほか、著者の貴重なエッセイも併録した充実のシリーズ8巻! PART1 妖笛 PART2 あの紫は わらべ唄幻想 PART3 あやかし幻想奇譚 黒縄 悪い絵 カンナあの紅 歪んだ扉 アリス PART4 エッセイコレクション 深夜の長電話 古城 飲まずに酔う 出無精の旅 嫌ひなものは嫌ひなり 最新設備 エジソンは唄う 藍の夏
棘のある舌で少女を舐め苛む怪異な男爵の物語…?日本の稀覯本『猫舌男爵』の翻訳に取り組む外国人翻訳家ヤン。だが、言葉と文化のギャップは誤解と憶測を呼び、ヤンと本の関係者たちを思いがけない運命へ導く。爆笑必至の表題作他、死期が近づくと水槽に入る奇妙な世界の死生観と孤独を描く「水葬楽」、女性画家の生涯を死亡時点から遡ることで驚愕の真実が明かされる「睡蓮」など、小説の無限の可能性を示す奇談集。
精神病院で受けた絵画療法によって絵の才能が開花した青年を巡る、病院関係者たちの心の闇を書簡形式で綴るミステリ「火焔樹の下で」、隣室をのぞき見た孤独な娘を誘う異様な遊戯とその結末を語る「密室遊戯」のほか、初文庫化に際し、閉鎖的な地方に生きる少年少女の倦怠と残酷を幻視的な筆致で描き出した「バック・ミラー」など3篇の単行本未収録作を附した16篇を収める。