著者 : 矢作俊彦
高級外車窃盗団を追う築地署の刑事游二の眼前に、その女は立ちはだかった。美しい肢体を晒しながら、銀座ティファニーのショウウインドーに銃弾をぶちかましたのだ。少女のような微笑をたたえながら。そしてダイヤのピアスを盗むと、獣じみた哄笑を残して、消えた。同僚の死、ビル爆破、高級車炎上ー。次々と凶事に巻き込まれる游二が辿り着いた女の正体とは。渾身の傑作長編。
神奈川県警の嘱託・二村永爾は、1本の映画フィルムの行方を追って、香港へ飛んだ。それは、ある殺し屋がモデルとなった、封印された映画だった。幻の黒色影片(暗黒フィルム)を巡り、立て続けに巻き起こる射殺事件。二村の前に現われた気高き女優と、謎の映画プロデューサー、そしてゲルニカ拳銃の銃口。横浜、長春、香港ー複雑な過去と現在が交錯してゆく。
昭和天皇崩御の式典が行われている京都の街中で、偶然、テレビカメラに映し出された一人の伝説の老人。「この男からインタヴューを取ってもらいたい」と上司から指示された人物は、新潟の山奥で四十年もゲリラ活動を展開してきた独立農民党党首・田中角栄その人だった。しかし、私の眼は、老人の側に寄り添う美しい女にくぎ付けになっていた。その女こそ…。来日したCNN特派記者が体験する壮烈奇怪な「昭和」の残照。
第二次世界大戦後、日本は大菩薩峠を境とする「壁」で東西に遮られ、東京を首都とする共産主義国家の東日本と、大阪を首都とする資本主義国家の西日本に分断されていた。西日本では「ちゃうか」などベタな大阪弁が標準語となり、「昔の標準語」はマイナー方言になっていたー。そんな日本にやってきたアメリカ黒人のCNN特派記者「私」を待ち受けていたものは…!?戦後分断された東西日本の統合をめぐる壮大奇怪な真贋日本史。
詩人でありフランス文学の名翻訳者である堀口大學の青春回想記の形を取った一大ロマン。二十歳の大學は外交官である父の任地メキシコに呼ばれた。彼の地で起こった革命のただ中を颯爽と生き、大統領の姪である美少女フエセラに一瞬で心を奪われるが、この恋の行方は…。一千枚が疾走し続ける豪快極まる傑作歴史絵巻。
神奈川県警の刑事・二村永爾は、殺人事件の重要参考人ビリー・ルウの失踪と関わった嫌疑で捜査一課から外されてしまう。事件直後、ビリーが操縦していたジェット機が台湾の玉山の上空で姿を消したことを知らされる。一方、横須賀署の先輩刑事から国際的な女流ヴァイオリニストの養母である平岡玲子の捜索を私的に頼まれる。玲子のマンションで二村は壁に拳銃弾を発見、彼女が事件に巻き込まれたことを知るが…。三島賞受賞第一作となる傑作ハードボイルド。
男は殺人未遂に問われ、中国に密航した。文化大革命、下放をへて帰還した「彼」は30年ぶりの日本に何を見たのか。携帯電話に戸惑い、不思議な女子高生に付きまとわれ、変貌した街並をひたすら彷徨する。1968年の『今』から未来世紀の東京へー。30年の時を超え50歳の少年は二本の足で飛翔する。覚醒の時が訪れるのを信じて。
横浜医科大学の処理室から一体の屍体が消えた。屍体は江口達夫という医大生のもので、学術解剖用に遺体を提供するという遺書が死後発見されていた。消えた屍体の捜索を依頼された神奈川県警捜査一課の二村永爾は、江口の友人二人を訪ねるが、その数日後、屍体は処理室に戻っていたー。『ロング・グッドバイ』の二村永爾シリーズ第2弾!傑作長編ハードボイルド。
ベンツ、ビートル、マスタング、スカイライン、シビック、ベレット、コロナ、アルファロメオ…いつも車がそばにあった。かげのキャラクターとして存在感を放つ個性的な名車たちとともに、若い男女が織り成す12のストーリー。首都高、横浜からニューメキシコまで、国境をこえて60年〜70年代の気分を漂わせる傑作短編小説集。
スズキさんは40歳で、広告会社の副社長。妻と一人息子と暮らす、いまでは立派な中年だ。そのスズキさんがはじめてとった有給休暇の朝に届いた一冊の古本『ドン・キホーテ』。差出人として記されていたかつての同志の名前は、奇妙に甘く懐かしく、スズキさんを20年前への時間旅行にと駆り立てた…。全共闘世代の現在を描いて怒涛の賛否を巻き起こした超話題作、待望の文庫化。
日本人に似た顔をもつ傑は、養父の死後、家を売り育った国を捨て、ニッポンの都市・東京にやって来た。会社を裏切り技術輸出をするビジネスマン、不法外国人労働者、エイズ治療薬のために草野球のピッチャーに顧われる元大リーガー、名曲喫茶で商談する殺し屋etc…。傑の眼に映る、都市徘徊者たちの悲哀と滑稽を描き、“ニッポン”との摩擦とジレンマをクールに見据る最新作。
イグニッションキーをひるねと、エンジンが吠え、ヘッドライトの両眼に灯が点ったー。ロータス・コーティナ、ヴァンデン・プラ・プリンセス1300、スカイラインGTB、キャディラック、ルノゥ5アルピーヌ、レインジ・ローヴァー、ダットサン510、フェラーリなど、14台の車には、同じ数だけのドラマがあった。様々なクルマと様々な人生が交錯する一瞬を鮮かに描いた14の傑作短編。
横須賀の朝、高台の洋館で女の死体が発見された。そして、米軍桟橋沖に沈んだワーゲンからは男の死体が…。無関係に思える2人は、ロシア製の拳銃で射殺されていた。公安警察の怪しい影が見え隠れする、この事件の極秘調査を命じられた県警捜査1課の刑事・二村永爾が、真相に辿り着くまでを描いた表題作のほか、女優脅迫事件を巡る二村の活躍を描く「陽のあたる大通り」を収録。
40歳を過ぎて、スズキさんははじめて休暇をとった。その朝届いた一冊の古本『ドン・キホーテ』。差出人の名前は奇妙に甘く懐しく、スズキさんは20年前の時間旅行へと旅立った…。一点突破全面展開を期す、優しく過激なファンタジー。
ベルが紘一を振り返らせた。キャロラインが自転車を止め、片っぽうの赤い運動靴の足を地面につっぱったところだった。「送って行くわ」(表題作)。孤独な編集者や下級外交官夫人の“冒険”、元プロ野球選手の娘の失恋…。ニューヨークで暮らす日本人たち。十の男と女の物語を、マンハッタンの風俗を織りこみながらつづる。
警察とヤクザの両方から追われる殺し屋・〓。気がついたら銃撃戦の真っ只中にいた(『言い出しかねて』)。「彼女は、彼女でなくなってしまった。殺してやるのが親切ってもんだ」3人の男たちは拳銃を手に入れた(表題作)。清冽な冴えをみせる珠玉の6編。愉快でとぼけた連中が活躍する、正統派ハードボイルド小説集。
「パーティをやろうと思う」マイク・ハマーが提案した。「松本の死を悼んでね。一風変わったパーティだぜ」V8、3200cc、300馬力の化け物パトカーに、仲間を殺された5人の横浜っ子たちは、復讐を計画した。-高速道路での迫真のカーチェイス、小気味よい青春とその終わりを鮮やかに描いた傑作長編。矢作俊彦デビュー作。
日曜と重なったある非番の日、私は横須賀へ出向いた。そこで署長は意外な話を持ちかけてきた。高級クラブに勤める女が挙銃で殺され、米軍基地内の桟橋で、パリから来た男が同じ挙銃で自殺した。事件は公安部の扱いだが、不自然な状況にもかかわらず彼らは自殺説で片づけようとしている。だから、独自に捜査をしてくれないかというのだ。公安部がもみ消しをはかる事件の本当の姿とは何なのか。-日本の新しいハードボイルド小説の担い手が、その鮮烈な感性を凝縮して神奈川県警二村永爾刑事の苦闘を描く傑作。他に「陽のあたる大通り」を収録。
コルテス大佐は、アンデス山麓に屹える城塞“隼のゆりかご”で、テロリスト富樫耕平の訊問にあたっていた。ナチス・ドイツの遺産の核爆弾!それはどこに?攻撃目標はアメリカ本土??…耕平奪還をかけて城塞を狙う共産ゲリラたち、主都コスメルで不気味な行動をつづける軍、そして美貌の伯爵未亡人。物語は白熱する!