著者 : 矢倉尚子
ひと目惚れ!かくも胸躍らせる言葉があの時代にはあった。60年代のはじめ、場所はロンドン。クリフォード・ウェクスフォード。35歳、美男で独身でお金持ち、美術オークションの大会社レオナルドの実権を握ろうとしている。ヘレン・ラリー。22歳。額縁職人であり、ボッシュばりだが売れない絵を描く画家の娘。地味なドレスながら、有名人やきらびやかな衣装をまとった美女たちのなかでもひときわ輝く美しさ。二人はパーティ会場を抜け出し、甘く激しい一夜を過ごす。やがて、かわいい娘ネルが生まれるが…。
男心はこんなにもろいものなのか、そして女心は…?クリフォードとヘレンをとりまく男と女たち。大富豪の娘アンジー、つぎつぎと変わるクリフォードの愛人たち、ヘレンを愛する美男の黒人私立探偵、ヘレンの両親、クリフォードの両親、ヘレンの再婚相手のサイモン、そのほか大勢の人々が、男と女の心のゆき違いに悩み、傷つき倦みながら、また新しい出会いで人生が変わろうとしている。そして二人の間に生まれた娘ネルは、想像を絶する運命に弄ばれていく。乾いたユーモアと鋭い人間洞察で描くフェイ・ウェルドンの代表作。
ニューヨークの大学で英文学を教えるケイト・ファンズラーは知的で魅力的な30代女性。ある夏ケイトは、高校時代の同級生に頼まれ、その友人の死んだ父親が生前J・ジョイスやD・H・ロレンスらと交わした手紙や書類を整理しに、保養地として名高いパークシャーヒルズの山荘に赴く。数日後、事件が起きる。同行した甥のリオと家庭教師は毎朝早起きして空の拳銃を隣家に向けて撃っていたが、ある朝、空のはずの銃から弾が飛び出し、隣家のブラッドフォード夫人に命中、死なせてしまう。だれかが密かに銃に弾をこめていた。そしてその犯人は、甥たちの習慣と夫人が早朝いつも庭に出ることを知っていたのだ。ブラッドフォード夫人は嫌われ者ではあったが、殺されねばならないほどの理由があったのだろうか。