著者 : 神津凛子
夫と死別し、後に流産した秋夜。悲しみを断つためにも再婚し、善財家に嫁ぐが、そこに安寧はなかった。義母からの苛めに心が壊れかけてしまう。そんな時、近隣に住む小学生の優真と出会い、交流が始まった。優真もまた家庭に問題を抱えており、二人は互いの拠り所になっていく。ただ平穏に暮らしたい。だが、二人の願いは叶わない。秋夜はついに家から逃げ出すが、義祖父の訃報で家に戻らざるをえなくなる。さらに同じ頃、優真の親友の身にも悪意が迫っていた…。連続する悲劇は「不運」で片づけられるのか?秋夜の絶望は次第にある疑念へと変貌していく。歪んだ人間心理が行きつく先はー。
小学生の夏休みに霊が「視える」ようになった鈴。初めて視たのは、赤い服を着た爪のない不気味な女の霊。怖い、怖い、怖いー。怯える鈴を救ったのは、祖母がくれた「オイサメサン」の指輪だった。だが9年後のある日、バイト先のファミレスで「祓える」男に出会う。彼はオイサメサンは詐欺師だと吐き捨てた。オイサメサンは、詐欺師なんかじゃない。しかし、赤い女は9年経った今でも鈴のことを追いかけていた。鈴はある殺人事件に巻き込まれ、予想もしない運命に呑まれていく。
建築会社に勤める勝人は、コーヒーショップ店員の華と運命の出会いを果たす。一目で心を奪われた勝人は、彼女との距離を少しずつ縮めていく。ところが、それから勝人は奇妙な子どもの姿を目撃するようになる。自分以外の誰にも見えない幻影に苦しめられながらも、華の優しさに救われる勝人。一方、華の弟である星也は、突然様子が変わった姉が気に入らない。華の彼氏は、本当に信用できるやつなのか?血のつながらない姉にほのかな恋心を寄せる星也は、親友の葉月とともに、勝人のことを調べ出すが…。あのとき、「わたし」が黙っていなければー。見て見ぬふりの負の連鎖が忌まわしき悪夢を招く戦慄のサイコ・ホラー。
「わたし」は、事故で彼を失った直後に妊娠していたことを知り、女手一つで娘のひかりを育ててきた。娘を保育園に預け、スーパーで惣菜作りを続ける日々。身寄りも、貯金もない。生活はちっとも楽にはならない。けれど、わたしは幸せだった。ひかりの成長、ひかりの笑顔、ひかりの温もり。わたしたちは、たった二人で精いっぱい生きていた。あの忌まわしき瞬間までは。突如壊される平穏。謎めいた男による拉致、監禁。恐怖と苦痛の果てに告げられる、信じがたい絶望ー。
長野の冬は長く厳しい。スポーツインストラクターの賢二は、寒がりの妻のため、たった1台のエアコンで家中を暖められる「まほうの家」を購入する。ところが、その家に引っ越した直後から奇妙な現象が起こり始める。我が家を凝視したまま動かない友人の子ども。赤ん坊の瞳に映るおそろしい影。地下室で何かに捕まり泣き叫ぶ娘ー。想像を絶する恐怖の連鎖は、賢二の不倫相手など屋外へと波及していき、ついに関係者の一人が怪死を遂げる。ひたひたと迫り来る悪夢が、賢二たち家族の心を蝕んでいく…。第13回小説現代長編新人賞受賞作。