著者 : 秋庭葉瑠
ひっつめ髪に眼鏡をかけ、女看守と揶揄されながらも地道に働くキャシー。かつて彼女はトップモデルとして華々しく活躍していた十代の頃、金持ちの男たちには見向きもせず、マルセルという青年と恋におちた。だが嫉妬した金持ちが彼に瀕死の重傷を負わせたことで、悲恋に終わった。10年が過ぎた今も彼女の心はマルセルを求め、夢に見ることもある。そんなある日、経営に行きづまった雇主から次の仕事の面接を勧められ、キャシーはしぶしぶ面接の会場に指定されたホテルへ向かった。そして、バーで待つホテル王の顔を見て、彼女は卒倒しかけたー嘘よ、マルセル!私のマルセル!いえ、もう私の彼ではない…。激しく動揺するキャシーをよそに、マルセルは彼女が誰か気づかぬまま、淡々と面接を進めて告げた。「結構。君は僕のアシスタントに適任だ」
24歳のシングルマザー、ステラは1通の手紙を受け取った。差出人はギリシア人大富豪のテオ・パンテラス。生涯ただひとりの恋人にして、ステラの最愛の息子の父親だ。交際を反対されていた二人は、妊娠を機に駆け落ちを決めたが、当日、彼はいつまでたっても約束の場所に現れなかった。おなかの子もろとも私を捨てたくせに、今さら会いたいだなんて。6年間、たったひとりで息子を産み育ててきたステラは、千々に乱れる心を抱えたまま、テオに会う。どんなにつらくても、彼を恨むことはできなかったから…。そして、あの運命の夜の、恐ろしい秘密を知ったのだった。
「二度と君を離さない。モリー、君は僕のものだ」事故で記憶をなくしたモリーは見知らぬ婚約者ピエトロにかいがいしく世話を焼かれ、壊れ物のように大切にされていた。お腹のなかでは彼の子がすくすくと育っている。モリーは漠然と広がる不安にさいなまれながらも、豪華な婚約指輪を身につけ、夜ごと無上の喜びに浸っていた。だが、夢のように幸せな日々はある日突然終わりを告げた。モリーは思い出したのだー彼とはただの愛人関係だったことを。妊娠を告げたときの、あまりにも残酷な彼の仕打ちを。
カフェで働くキアラは、週末は実家のベーカリーを手伝い、母を亡くしてからすっかり元気を失った父を支えている。だが、その店の経営もしだいに傾き始め、彼女は悩んでいた。そんなとき願ってもない申し出が飛びこんできた。事情を知ったカフェの常連客である会社社長ラゼロが、重要な商談の場に婚約者として同行してくれれば、見返りとして店の融資に全面的に協力しようというのだ。彼の黒く輝く瞳に射ぬかれ、気づけばキアラは承諾していた。まさかラゼロを本当に愛してしまうことになるとも思わずに。
半年前、両親を事故で失って以来、クロエの人生は一変した。父母が築きあげた化粧品会社を、ニコが引き継いだのだ。なぜ父は遺言書で、私ではなく彼を後継者に指名したのだろう。確かにニコは父の亡き親友の息子で、これまで実子同然の援助を与えられてきたけれど、いくらなんでもあんまりよ。クロエの脳裏に10年前の苦い思い出がよみがえった。地味で奥手な18歳の彼女を励まし、自信を与えてくれたニコ。だが無垢な身を捧げたとたん裏切り、冷酷に立ち去ったのだ。もうこれ以上彼に奪われてはだめ。そう、心までは…。
秘書として休みもなく働き、ボスに尽くしてきたアンディは、その日ついに覚悟を決めた。「辞めるわ。今日が最後よ」彼女はハンサムで魅力的な大富豪の社長、マックに恋していた。このまま想いに気づいてもらえず、オフィスの備品も同然に扱われ続けるのは耐えられない。永遠に会社を去ろう。愛する男性のもとを…。「さようなら」だが、傲慢で自信家のマックは目をぎらつかせて告げる。「きみを手放すつもりはない。きっときみは考え直すだろう」説得の場はいつしか親密な空気に包まれ、二人は体を重ねる。その夜、アンディが授かったものは…。
姉が遺した生後4カ月の赤ん坊を育てているミアは、ある日、世界的な建築家で大富豪のアダム・チェイスの屋敷を訪ねた。一夜の過ちで彼の子を妊娠した姉が、人知れず赤ん坊を産んだあと命を落としたことを告げるために。だが、アダムはなぜか海辺の豪邸で世捨て人同然の生活を送り、話す機会すらない。海で泳ぐのが日課らしいという情報を頼りに、ミアは浜辺で出会いの機会を待つことにした。やがて現れた神々しいほど美しい男性ーアダムに近寄ったとき、ミアは割れた瓶のかけらで足を切り、優しく介抱してもらった。思いがけずデートに誘われ、ミアは真実を口にできなくなり…。
記憶喪失…ですって?アリーは2カ月ぶりに再会する夫フィンを前に言葉を失った。彼とは出会ってすぐ燃えるような恋に落ち、結婚した。でも、幸せは続かなかった。世界に名だたる宝石会社の御曹司だった彼は、北欧の祖国に彼女を連れていくや、なぜか急に冷淡になったのだ。仕事にすべてを捧げ、孤独な新妻になどまるで無関心で…。すれ違いの日々にアリーは深く傷つき、絶望のうちに家を出た。彼の子を宿しているなんて、どうしていまさら言えるだろうー何も知らないフィンは変わらぬ魅惑の瞳でアリーを見つめ、甘くささやく。「きみが、ぼくの妻なんだね?」。
女手一つで5歳になる息子を育てるカーラは、突然の報せに動転した。わが子が継ぐはずの地所が、憎んでやまない男に乗っ取られたとは!タイ・マードックー6年前、私に愛の夢を見させておきながら、いともたやすく捨て去り、そのまま帰らなかった身勝手な人…。カーラの父は賭けに負け、そんな彼に土地を明け渡す羽目になったのだ。ただちにタイのもとへ向かい、家族の地所を返すよう訴えた彼女に、彼はとんでもない提案を持ちかけてきた。「僕と結婚すれば、きみの子供を養子にして継がせることができる」カーラは凍りついた。養子ですって?いいえ、あの子は、6年前この町を去る前に授かった、あなたの子なのよ。