著者 : 細郷妙子
牧師のプルーデンスは今夜、一大決心をしていた。仕事にかこつけて4年も待たされた婚約を破棄するのだ。身勝手な婚約者には、結婚はやめて職に就くと伝えるつもりだけれど、まだ働くあても見つかっていないのに、どう言えばいいだろう?悩むプルーデンスに、意外な人物から声がかかる。義弟の親友のオランダ人医師ベネディクト・ファン・フィンケに、身の回りの世話をする住み込みの助手になってほしいと言われたのだ。渡りに船とばかりに、プルーデンスは申し出を受けることにした。いくらベネディクトが理知的ですてきな男性とはいえ、ほとんど知らない彼とオランダへ行くことに一抹の不安を覚えながら…。
亡き父への思慕を募らせ、彼が生涯愛した砂漠を訪れたローナ。だが、オアシスに立つ父の家はすでに朽ち果て、廃墟と化していた。茫然とするローナに追い討ちをかけるように、とつぜん盗賊が現れ、襲いかかってきた。と、妖しい光を瞳に宿した馬上の男がローナを救った。きのう、砂占い師が予言した、黒い髪の男性との出会い。私を追いかけ、私に触れるというその人は、彼のことなの?不安に駆られ、町まで送ってほしいと懇願するローナをよそに、男は彼女を連れ去ったーあまりに熱く、甘美な砂の世界へ。
秘書のジェンマは取引相手のギリシア大富豪レオンに会ったとたん、その端麗で官能的な姿に、ひと目で心をかき乱された。噂によれば、世界でも指折りの名家の出で、利己的なプレイボーイらしい。「条件も約束もなしだ。終わりがきたら友好的に別れよう。それまでぼくは、きみだけの男になる。考えておいてくれ」レオンからそう囁かれ、口づけされたジェンマは、抗うべきだと頭ではわかっているのに、されるがままになってしまった。2カ月後、ジェンマは気分のすぐれない日が続き、妊娠に気づくーどうしよう!結婚嫌いのレオンには、こんなこと言えない。ましてや、いつのまにか彼を本気で愛してしまったなんて…。
誰もがうらやむ美貌と才能で成功を収め、若くしてロンドン社交界で名声を博するペパー。だが彼女は本当の名を隠し、長い年月をかけ4人の男たちへの復讐計画を密かに進めていた。それは11年前、彼女があるひとりの青年に惹かれたことから始まった。伯爵家の跡取りで眉目秀麗なその青年が悲劇をもたらすことを知らずに…。過酷な過去を乗り越えたペパーの華麗なる報復がいま、始まる。
スペインで修道女見習いをしている身寄りのないトニは、いわれのない差別を受け、つらい毎日を送っていた。ついに園丁の服を拝借した彼女は修道院からの脱走を企てるが、途中、紛れこんだ祭りの喧噪のなかで盗人に間違われてしまい、美貌の貴族ルークの手によりなんとか救われる。トニは彼の船でスペインからイギリスへ向かうことになり、身の安全のため、少年のふりのままルークや周囲の人々を欺いた。だが一方で、ルークへの思いは日々膨らんでいくばかりだった。そんなある日、彼らを乗せた船が嵐に巻きこまれてしまい…。
見覚えのある姿が目に入った瞬間、心臓が止まりそうになった。3年前、ターリアは裕福な実業家アレックスと激しい恋に落ちた。まだ若かった彼女は身も心も捧げたが、アレックスは違った。ターリアを裏切ったばかりか、自分の秘書と密会していたのだ。傷心のままターリアはアレックスの前から姿を消すが、そのときはすでに、彼女のおなかに小さな命が宿っていたーよるべないターリアがどれほどの辛酸を舐めて息子を育てたか、アレックスには興味もないだろう。だが、彼女はすぐに思い知る。彼が全てを調べあげた上で、ある狙いをもって会いに来たのだと。
あんな嘘をついた報いだー伯爵令嬢カミラは馬車の中でため息をついた。病に伏せる祖父を安心させるため、婚約者がいるなどとつい口にしてしまったのは先日のこと。そのせいでこうして祖父の屋敷へ“いもしない婚約者”を紹介しに行くはめになり、あげく考え事に耽っていたせいで道に迷ってしまった。途方に暮れたカミラは通りすがりの見知らぬ男に道を尋ねた。男の名はベネディクト。端整な顔つきながら大柄で無骨で傲慢そのものの男だが、ひょんなことからカミラはベネディクトに、偽りの婚約者を演じてもらうことになり…。
辣腕の投資家ギデオン・ケージが、弟の経営する小さな会社を乗っ取ろうとしていると知り、ハナは休暇中の彼のもとを訪ねた。巨万の富を築きあげたギデオンにとって、今回の買収などただの退屈しのぎに違いない。たくましく自信に溢れたギデオンは、カードの勝負で勝てば手を引いてほしいという彼女の申し出をなぜかあっさりと受け入れ、ハナは奇跡的に勝利する。高揚したハナは気づかなかった。非情な実業家に改心を説くハナに、ギデオンがそそられていることに。そして彼の情熱に煙る瞳で見つめられると、抗えないことに…。
大金をすってしまった妹のために、ジュリアが駆けつけると、待ち受けていたのは、今やカジノの経営者となったロームだった。冷たい美貌の彼は、鋭く告げた。借金の形にぼくと寝るんだ、と。ロームは、ジュリアたちが裕福だったころの使用人の息子だ。かつて、幼いジュリアがロームに苛められて泣き出したとき、祖母は理不尽にも、取りすがるロームの母親ともども解雇した。それに対する負い目は、いまも影としてジュリアの心に残る。だから罪を一身に背負い、彼に純潔を差し出したのだ。一夜の関係で、子を身ごもってしまうとは思いもせずに。
デイリー・グローブ社で働くブライアニーは有能な秘書だが、人には言えない過去があり、職場では冷たい女を装っている。新しいボスが来た日、彼の名を聞いてブライアニーは愕然とする。かつてブライアニーがすべてを捧げた相手、キーロンだったのだ。3年前、キーロンは自分のキャリアのため、彼女の愛を利用した。その結果、彼女は中傷にさらされて職をなくし、警察に尋問され、故郷に戻ることさえかなわなくなってしまった。だがキーロンは、再会に怯える彼女に謝罪や弁解をするどころか、“男をその気にさせて邪険に振る女”と責め立てた!
パーティで思いがけない人物を見かけ、アビーはひどく狼狽した。中東の国の王子ラシードが、いったいなぜここにいるのだろう。3年前、彼と運命的な出会いを果たし、アビーはすぐに結婚した。しかし幸せは束の間だった。周囲から彼に愛人がいると聞かされ、アビーは深く傷ついて宮殿を去ったのだった。二度と会いたくない。彼女はこっそりパーティを抜け出した。ところが外へ出たとたん、暗がりで行く手をさえぎった者がいる。アビーを射すくめる鋭い瞳。獲物を狙う砂漠の鷹のような…。ラシード。私を裏切っておいて、今さらなんの用があるの?
5年前、身寄りのないテッサは初恋の人ポールに振られた。彼は無神経にもテッサの書いた熱烈な恋文を友人に回覧し、町中の笑いものにされた彼女は故郷を飛び出したのだった。今テッサはロンドンで職業女性としての一歩を踏み出している。能力、体格、容貌すべてにずば抜けた上司のオームに認められ、彼のチームの一員として働けることに生き甲斐を感じていた。ところがある日、次の仕事の出張先が故郷の町だと聞いて、テッサは激しく動揺する。もしもポールに再会したら…あんな仕打ちを受けたのに、また惹かれてしまったらどうしよう。沈んだ彼女の様子に気づいたオームは、思いがけない提案をする。