著者 : 色川武大
表題作「夜風の縺れ」は、1955年9月に発行された同人誌「運河」第1号に収められていたもので、従来、色川作品最古といわれていた「小さな部屋」(1956年9月「文学生活」初出、『色川武大・阿佐田哲也 電子全集7』所収)よりも古く、『怪しい来客簿』(『色川武大・阿佐田哲也 電子全集1』所収)の「門の前の青春」にもつながる貴重な作品。さらに、杉民也名義で書かれた「寝心地よいアスファルト」、歴史小説「影にされた男」「覇城の人柱」などの新規発掘作品8篇を収録。加えて、『色川武大・阿佐田哲也 電子全集23』より、30篇の単行本未収録小説・エッセイと、1985年に記されたまま公表されていなかった「日記」を網羅した決定版。
1986年以降に発表された10作品を収録する“無頼派作家”最晩年の短編小説集。作者以上の無頼派である棋士・芹沢博文との交流と最期を綴った「男の花道」、中年男が嫁探しをする悲喜劇「男の十字路」、あるいは亡くなり、あるいは落ちぶれてしまったかつてのギャンブル仲間の姿を描いた「男の旅路」、無口だが芯のある男らしい男を描出した遺作「オールドボーイ」といった“男シリーズ”のほか、単行本未収録作品である「赤い靴」「青年」「蜘蛛太夫」「道路の虹」などをまとめた、色川ファン垂涎の一冊。
“昭和最後の無頼派”といわれた色川武大が人生のさまざまな局面で得た人生訓の数々を縦横無尽に綴った最後のエッセイ集。川上宗薫や深沢七郎、フランシス・ベーコンから井上陽水までもが採り上げられ、ほかに、戦争が残した痛ましい傷痕からあぶり出された人生観や犯罪者に同化する複雑怪奇な心情などが精緻に綴られる。既成の文学通念に縛られることのなかった著者ならではの直感や洞察、そして卓抜した表現で読む者を色川ワールドに引き込む珠玉の四十七編!
「奴とは、ばくち打ちであり、ばくち打ちの奥に至らんと五十年もすごしてきたような、顔をしている人物である」-色川武大は“阿佐田哲也”を冒頭でこう評している。阿佐田哲也なるばくち打ちは『麻雀放浪記』を書き、麻雀新撰組などを結成して世間を煙に巻いた。色川武大名義では『離婚』で直木賞を受賞した作家が、虚にして実、実にして虚の“阿佐田哲也”の素顔に迫った異色作。
「ことさら深刻ぶるのはよそうぜ」などとカッコいいせりふを吐いてぼくたち二人はおたがい納得して「離婚」したのです。ところがどこでどうなったのでしょうか、ぼくはいつのまにか、もと女房のアパートに住みついてしまって…。男と女のふしぎな愛と倦怠の形を、味わい深い独特の筆致で描き出す直木賞受賞作品。
杤ちかけた貸部屋に我物顔に出入りする猫、鼠、虫達。いつしか青年は、凄まじい“部屋”を自分と同じ細胞をもつ存在と感じ熱愛し始めるー没後一〇年目に発見された色川武大名義の幻の処女作「小さな部屋」、名曲“アイル・クライ・トゥモロウ”そのままの流転の人生を辿る女を陰影深く描く「明日泣く」等一二篇。戦後の巷を常に無頼として生きながら、文学への志を性根にすえて書いた色川武大の原質とその変貌を示す精選集。
狂気と正気の間を激しく揺れ動きつつ、自ら死を選ぶ男の凄絶なる魂の告白の書。醒めては幻視・幻聴に悩まされ、眠っては夢の重圧に押し潰され、赤裸にされた心は、それでも他者を求める。弟、母親、病院で出会った圭子ー彼らとの関わりのなかで真実の優しさに目醒めながらも、男は孤絶を深めていく。現代人の彷徨う精神の行方を見据えた著者の、読売文学賞を受賞した最後の長篇小説。
生まれ育った生家へ子どもの頃のままで帰りたいー戦時中、家の下に穴を掘り続けた退役軍人の父が、その後も無器用に居据っていたあの生家へ。世間になじめず、生きていることさえ恥ずかしく思う屈託した男が、生家に呪縛されながら居場所を求めて放浪した青春の日々を、シュールレアリスム的な夢のイメージを交えながら回想する連作11篇。
狂人と健常者の狭間に身を置き、他者を求めながらも得られずに自ら死を選ぶ男の狂気を内側から描いて、現代人の意識に通底する絶対的な孤絶を表出し、読売文学賞を受賞した著者の最初で最後の純文学長篇小説。
無個性な生き方はできない。しかし何かに成ることも嫌だ。どうせなら、遊び人らしく野垂れ死をしたいー。「暴飲暴食」「心臓破り」「傷は浅いが」…。五十代に入ったことをきっかけに書き始めた連作は、還暦を迎えて急逝する、そのわずか三カ月前に脱稿した表題作をもって、中絶した。予感するように死を意識した日々の心情を綴った本書は、まさしく著者の「白鳥の歌」であった。遺作短編集。
「おやじ、死なないでくれー、と私は念じた。彼のためでなく私のために。父親が死んだら、まちがいの集積であった私の過去がその色で決定してしまような気がする」百歳を前にして老耄のはじまった元軍人の父親と、無頼の日々を過してきた私との異様な親子関係を描いて、人生の凄味を感じさせる純文学遺作集。川端康成文学賞受賞の名作「百」ほか三編を収録する。
私が関東平野で生まれ育ったせいであろうか、地面というものは平らなものだと思ってしまっているようなところがあるー「門の前の青春」。亡くなった叔父が、頻々と私のところを訊ねてくるようになったー「墓」。独自の性癖と感性、幻想が醸す妖しの世界を清冽に描き泉鏡花賞を受賞した、世評高い連作短篇。
五十歳になったことをきっかけに書き始めた連作から、還暦を迎えて急逝したわずか三ケ月前に書き上げられた表題作まで、予感するように死を意識した日日の心情を私小説風に綴った短編群。「暴飲暴食」「五十歳記念」「心臓破り」「風と灯とけむりたち」「第三の男」「傷は浅いが」「引越貧乏」の七編を収録。
人生というばくちに敗れ、はずれ者として死んでゆく男虫喰仙次に対する深い親愛と共感を綴る表題作ほか、入学試験に失敗し挫折してゆく叔父〈御年さん〉や元海軍司令の父に寄せる想いを描く作品など7篇を収録。
自分は誰とも一体になれないのか。-狂人と健常者の狭間に身を置き、他者を求めながらも得られずに自ら死を選ぶ男の狂気を内側から描いて、現代人の意識に通底する絶対的な孤絶を表出した待望の純文学長篇。