著者 : 萩原葉子
母に捨てられ、有名な詩人だった父・洋之助が亡くなってからは祖母に虐待されて育った嫩(ふたば)。結婚後も夜な夜な暴力を振るう夫に悩まされ続け、やっと別れることができてほっとしたところに、父の知人・岸上太郎が訪ねてきた。「軽いエッセイや小説でも。いや、そんなことより洋之助の思い出を書いてみなさい。…君なら書ける」詩人萩原朔太郎の長女・葉子の実体験をもとにした自伝的小説で、『蕁麻の家』『閉ざされた庭』に続く三部作の完結編。三部作全体のあとがきとして書かれた『歳月ー父・朔太郎への手紙』も収録。
高名な詩人の父が亡くなると、利に敏く目端の利く叔父や、その姉妹たちに虐げられ、財産を奪われてしまった嫩(ふたば)。真面目そうな古賀和夫との結婚で、安アパート住まいながらも平穏な暮らしが始まると思っていたが、生まれや肉体的特徴などに深いコンプレックスを持つ夫とのあいだには、次第に亀裂が生じていく。子どもが生まれ、小さな家を建てることができたものの、お互いの心は離れていく一方でー。詩人・萩原朔太郎の長女・葉子の実体験から書かれた自伝的小説で、「蕁麻の家」の続編。
「天上の花」は、詩人・三好達治を、幼いころから三好にかわいがられていた著者ならではの目線で切り取ったもの。三好は前妻(佐藤春夫の姪)と別れ、朔太郎の妹・慶子と付き合うようになるが、きらびやかな生活を好む慶子と、貧しくても平和な暮らしを望む三好の愛の生活は、やがて破滅的な最後を迎えるー。第55回芥川賞候補作。「蕁麻の家」は母親が他の男のもとに走ったことが原因で、幼少期から祖父、叔母など家族みんなに疎まれ、頼みの父親からも避けられてしまう主人公の、まさに棘に囲まれているような生活を描いた秀作。第15回女流文学賞を受賞。
空しい結婚生活は破綻した。孤独な「朔太郎の娘」は、一人息子を育てながら、ようやく書くことで生きがいを見出す。しかし、淡い恋も失い、昔、父を裏切り、自分を捨てた母を捜して引き取ったことで、我儘と狂気に翻弄される嵐のような日々が始まった。一族の酷薄な仕打ちと暗く閉ざされた青春を描いた衝撃のベストセラー「蕁麻の家」、不幸な結婚を赤裸々に綴った「閉ざされた庭」につづく、著者渾身の自伝小説。
戦災で親兄弟を失った18歳の少女が、満月の夜、山中で3人の米兵に乱暴され、やがて身も心も引き裂かれて転落して行く。敗戦後の女たちが辿った凄惨な昭和史の1ページを描く書き下ろし長編小説。戦後の女性昭和史。