著者 : 藤井光
1959年ニューヨーク。ハーレムにある中古家具店で働くアフリカ系アメリカ人のレイ・カーニー。近頃、店にはガラの悪い男たちが出入りしていた。数々の罪を犯した父親とはちがい、カーニーはまっとうな人生を築くために誠実に働いた。愛する妻と娘もいる。だが、食べていくのは容易じゃない。時には、従弟のフレディがもちこむ盗品も売るしかなかった。ある日、フレディたちの起こした強盗事件にカーニーは巻き込まれる。そうしてギャングと悪徳警官が、カーニーに目を留めたのだった。妻子と自分を守るため、カーニーはならず者との裏取引を重ねていく。結局、自分も悪党なのだろうか?そのときフレディの危機を知らされ、カーニーが選んだのはー。人種、貧富、性差の問題が渦巻く街を舞台に、『地下鉄道』著者が放つエンタメ長篇!ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー、全米批評家協会賞(小説部門)最終候補。
フィリピン出身のミステリー作家兼翻訳者マグサリンは、訳あってニューヨークから帰郷し、新作小説の案を練り始める。そこへ一件のメールが届くー送信者はなんと、その小説の主人公である映画監督キアラ・ブラージだった。キアラの父親も映画監督であり、1970年代にベトナム戦争中の米軍による虐殺事件を扱った映画をフィリピンで撮影したのち失踪していた。その謎を抱えるキアラは、米軍の虐殺事件が1901年にフィリピン・サマール島のバランギガでも起きていたことを知り、その事件をみずから映画化するためにマグサリンに現地での通訳を願い出たのだ。こうして始まった二人の旅の物語に、キアラが書いた映画の脚本の主人公、1901年当時のサマール島に上陸したアメリカ人の女性写真家カッサンドラ・チェイスの物語が絡み合う。彼女が目撃するのは、米比戦争で駐屯する米軍部隊と服従を強いられる島民という、支配と被支配の構図である。マグサリンはその脚本に、実在の女戦士・フィリピン人のカシアナ・ナシオナレスを登場させる。かくして物語は、アメリカとフィリピンの視点がせめぎ合い、現代の比政権の麻薬戦争も加わって、過去と現在、現実と虚構、支配と被支配が境界を越えて交錯していく…。
ゴールドラッシュが過ぎ去った黄昏のアメリカ。かつて黄金が埋まっていたこの地を、今は乾いた金色の草だけが覆っている。炭坑の町で暮らす中国系移民一家の子供、11歳のサムと12歳のルーシーは、明け方に〓(ちち)が亡くなっていることに気づいた。媽を数年前に失った二人には、もう居場所はない。だから町から逃げ出し、〓の亡骸を葬る旅に出る。現実的で、協調性を重んじるルーシーと、奔放で、自らの信念を貫こうとするサム。二人で始めたはずの旅はやがて、それぞれの居場所を問うものへと変わっていくー現実と幻想、歴史と神話を織り交ぜながら、ある移民一家の喪失と再生を描く長篇。
強大な力と高い知性を持つ節足生物「トリク」が支配する地で、トリクの保護を受けて暮らす人間たち。人間は、トリクの卵を男性の体内に宿し、育て上げるという役割を担っていたー。究極の男性妊娠小説である表題作から集大成まで異星人・伝染病・生殖etc.をめぐり宿命と光を描いた、ジャネル・モネイ、N・K・ジェミシンらが崇拝する伝説的SF作家の代表作。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、三冠受賞!
中国発の未知の病「シェン熱」が世界を襲い、感染者はゾンビ化し、死に至る。無人となったニューヨークから最後に脱出した中国移民のキャンディスは、ある生存者のグループに拾われ、安全な“施設”へと向かう。生存をかけたその旅路の果てはー?中国系米国作家が放つ、震撼のパンデミック小説!
1960年代前半、フロリダ州。アフリカ系アメリカ人の真面目な高校生エルウッドは、大学進学を志していた。しかし、彼は無実の罪により、少年院ニッケル校に送られることになる。信じがたい暴力や虐待が蔓延するニッケル校で、エルウッドは皮肉屋の少年ターナーと友情をはぐくみ、なんとか日々をやりすごそうとするがー。実在した少年院をモデルに描かれた『地下鉄道』著者の最新長篇小説。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー。ピュリッツァー賞受賞。
相反するすべての思いをこめて、H・P・ラヴクラフトに捧げる。「レッド・フックの恐怖」から90年後、アフリカ系アメリカ人作家ヴィクター・ラヴァルがラヴクラフトの世界を語り直す。1924年、ニューヨークハーレムに住むアフリカ系の若者トミー・テスターは、根強い社会的差別のなか自分なりに稼ぐ手段として、街角でギターの弾き語りをするふりをし、その実怪しげな仕事を引き受けている。ある日、ブルックリンにある墓地の前で歌うトミーのもとに、ロバート・サイダムと名乗る白人の老人が、自宅で開くパーティで演奏してくれたら高額な報酬を払うと声をかけてきた。サイダムの狙いは何なのか?…サイダムを捜査するトーマス・マロウン刑事と私立探偵ハワード、父親の死、霊を呼び出す歌、海原の底に眠る王、そして“至上のアルファベット”-魔術的な出来事がトミーの人生を大きく変える。シャーリィ・ジャクスン賞、英国幻想文学大賞受賞!
仕事から帰る途中にサブリナが行方不明になって、ひと月が経った。心配のあまり不安定になった彼女の恋人テディは、遠方に住む幼馴染カルヴィンの家に身を寄せる。サブリナの妹サンドラは、姉に何が起きたかが判明するのを苦しみながら待っていた。そしてある日、衝撃的な映像を収めたビデオテープがメディア各社に送られるーグラフィックノベル初のブッカー賞ノミネート。
戦場での英雄的活躍に憧れ、北軍に志願したヘンリー。進軍の停滞で焦らされた末に戦いが始まり、興奮のうちに射撃し続けた彼だったが、執念深く襲いかかる敵軍の包囲に遭うや、高揚はたやすく恐慌へと変わるのであった。南北戦争を舞台に色彩豊かに描かれるアメリカ戦争文学の傑作。
広告代理店に長年勤務した初老の男ビル・ウィットマン。彼の人生の瞬間の数々を自虐的ユーモアを交えて語る断章形式の物語。(「海の乙女の惜しみなさ」)。もとはモーテルだったアルコール依存症治療センター“スターライト”。そこに入所中のマーク・キャサンドラが、ありとあらゆる知り合いに宛てて書いた(または脳内で書いた)一連の手紙という体裁の短篇。(「アイダホのスターライト」)。1967年、ささいな罪で刑務所に収監されることになった語り手。そこで無秩序の寸前で保たれる監房の秩序を目の当たりにし、それぞれの受刑者が語る虚構すれすれの体験談を聞く。(「首絞めボブ」)。かつてテキサス大学で創作を教えていた語り手は、あるとき学生たちを連れて老作家ダーシー・ミラーの牧場を訪ねる。その後、作家仲間から彼の安否を気遣う連絡を受け、ふたたび訪問すると、そこには、すでに死んだはずの兄夫婦と暮らしていると錯覚するミラーの姿があった。(「墓に対する勝利」)。詩人である大学教師ケヴィンが、才能豊かな教え子マークのエルヴィス・プレスリーに対する強迫観念を振り返る。マークは、エルヴィスの生涯に関する陰謀説を証明しようとしていた。(「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」)。
薬指を失った名ヴァイオリニスト。大学教授になりすますシェフ。失意の象使い。時代や運命の不条理に翻弄されつつも、何かを生み出そうと苦闘する人々の物語は、作家自身の家族史をも織り込みながら、繋がり合うように広がっていくー。ベスト・アメリカン・ショート・ストーリーズに4年連続選出された名手による、驚異と慈愛に満ちた17篇。
現実か、悪夢か。現実性と非現実性が交錯する14の物語。イラクにはびこる不条理な暴力を、亡命イラク人作家が冷徹かつ幻想的に描き出す。現代アラブ文学の新鋭が放つ鮮烈な短篇集。PEN翻訳文学賞、英国インディペンデント紙外国文学賞受賞。既刊2冊から14篇を選んでアメリカで出版された英訳版からの翻訳。
内戦終結後、出所した劇作家を迎えて十数年ぶりに再結成された小劇団は、山あいの町をまわる公演旅行に出発する。しかし、役者たちの胸にくすぶる失われた家族、叶わぬ夢、愛しい人をめぐる痛みの記憶は、小さな嘘をきっかけに波紋が広がるように彼らの人生を狂わせ、次第に追いつめていくー。鮮やかな語りと、息をのむ意外な展開。ペルー系の俊英がさらなる飛躍を見せる、渾身の長篇小説。
1970年代から現代までの、パキスタンのさまざまな土地と人々を鮮やかに描き出す連作短篇集。オー・ヘンリー賞受賞の短篇を含む8篇を収録した、全米図書賞とピュリツァー賞最終候補作品。チェーホフとマンローのような優雅さ、深遠さをあわせ持つ、パキスタン系作家による心を打つデビュー作。
古代人のミイラに出会った科学者たちの悲喜劇。なぜか毎年繰り返される死者続出のピクニック。数多の美女と一人の醜男が王に仕える奇妙なハーレム。平均寿命1億分の4秒の微小生物に見る叡智ー。現代アメリカ文学の新潮流をリードする若き鬼才による、プッシュカート賞受賞作2篇を含む11篇。
この愛は、何という呪いだろうか。友人同士を、そして愛する者と愛される者を仲たがいさせるとは。医師コンスタンスへの愛と、深く帰依するグノーシス主義の掟との間で引き裂かれるセバスチャンことアッファド。彼の苦悩を軸に、死の儀式を告げる手紙、迫り来る殺人者などサスペンスの要素も加わって、物語はスリリングに展開する。