著者 : 藤沢周平
最愛の妻を自死に追い込んだ理由を探る軽輩・友助の闘いを描く「木綿触れ」。家族に売られ島送りにされた渡世人・忠七が切なる願いを叶えるべく帰郷する「生国は地獄にござんす」。盗賊団頭首・角右衛門が活躍し、鬼平シリーズの先駆をなした「看板」。彼らが命を懸けてでも守りたかったもの、成し遂げたかったことは何だったのか。“男の死”をテーマに編まれた飲泣呑声の時代小説アンソロジー。
藩主の弟、長門守忠重が自らの嫡子を次期藩主に据えようと、御家乗っ取りを企てた。「長門守一件」として知られる史実を題材にした、のちの御家騒動シリーズの原点とも言うべき表題作。ほか、小藩の小禄武士に嫁いだ女房を描く「夢ぞ見し」など、初期から中期に移る藤沢文学の多彩な五篇を収録した短篇集。
暑い夜だった。そして夜は始まったばかりだったーたたみかけるような文体で冒頭に語られる、四人の男の不運な人生。小さな居酒屋の常連である彼らを“押し込み強盗”にしたたかに誘う、謎の男が現れる。決行は人足が途絶える逢魔が刻…。物語構成の独創性が際立つ、ハードボイルド犯罪時代小説の傑作!
江戸の長屋で板木師として日々腕を磨く清次。兄の弥之助は博奕と女に溺れ故郷の家を潰した。恋女房のおたみが重い病を患い、清次は版元の頼みで危ない橋を渡る。金銭授受をめぐる刃傷沙汰から救ったのは、音信不通だった弥之助だった。人生の闇に堕ちる男たちを描く表題作ほか、傑作時代小説全五編を収録。
新しい女囚人おきぬは、顔も身体つきもどこか垢抜けていた。下男を手なずけ貢がせるしたたかさに、登は入牢のきっかけとなる事件を探るが、どこか腑に落ちない。一方、従妹おちえの友人おあきが自分を訪ねてきたと聞き、とある約束をしていた登は慌てるがー。青年獄医の成長と葛藤を描いた傑作連作集第三弾。
死病に憑かれた下駄職人の彦蔵が「三十年前に子供をさらった」と告白する。その時子供を二人殺したという相棒によく似た男を、登は牢で知っていた。彦蔵の死後、おちえから最近起きた“子供さらい”の顛末を聞いた登は、ある行動に出るー。医師としての理想を模索しつつ、難事に挑む登の姿が胸を打つ完結篇。
医者になる夢を叶えるべく江戸に出た登を迎えたのは、はやらない町医者の叔父と口うるさい叔母、驕慢な娘ちえ。居候としてこき使われながらも、叔父の代診や小伝馬町の牢医者の仕事を黙々とこなしている。ある時、島流しの船を待つ囚人に思わぬ頼まれごとをするがー。若き青年医師の成長を描く傑作連作集。
「娘と孫をさがしてくれねえか」半年以上も牢に入り、今は重い病におかされる老人に頼まれ、登が長屋を訪ねてみると、そこには薄気味悪い男の影がー。一方、柔術仲間の新谷弥助が姿を消し盛り場をさまよっているという噂に、登は半信半疑で行方を追う。青年獄医が数々の難事件に挑む傑作連作集第二弾。
海坂藩普請組牧家の跡取り・文四郎、15歳の初夏から物語は始まる。 隣家のふくとの淡い恋、小和田逸平・島崎与之助らとの友情、突然一家を襲う悲運と忍苦ーー。 苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿を描き、数多くある藤沢作品のなかで不動の人気ナンバー1を誇る「蝉しぐれ」が、文字の大きくなった新装版で登場。 時代を越えて読み継がれる、藤沢文学の金字塔。 解説・湯川豊(文芸評論家)
海坂藩普請組牧家の跡取り・文四郎、15歳の初夏から物語は始まる。 隣家のふくとの淡い恋、小和田逸平・島崎与之助らとの友情、突然一家を襲う悲運と忍苦ーー。 苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿を描き、数多くある藤沢作品のなかで不動の人気ナンバー1を誇る「蝉しぐれ」が、文字の大きくなった新装版で登場。 時代を越えて読み継がれる、藤沢文学の金字塔。 解説・湯川豊(文芸評論家)
何度も郷里に引き戻されながら、江戸で学問と剣術を極めていく元司。二十五歳で清河八郎と改名、自ら塾を開くも、やがて学問の世界を離れ虎尾の会を結成、尊皇攘夷の急先鋒となっていく。しかし倒幕の機いまだ熟さず、早すぎた志士として凶刃に倒れるー悲劇の孤士の生涯をあますところなく描いた傑作長篇。
江戸後期の天保年間、老中水野忠邦から突然命じられた理不尽な三方国替え。越後長岡への転封を強いられた藩主を守ろうと、荘内藩の百姓たちは越訴のため黙々と江戸を目指す。深山にわけ入り間道を伝って歩き続ける領民の相貌と彼らを衝き動かした情動を精緻に描く、新装版の傑作歴史長編。
薩摩討つべし! 悲劇の志士・雲井龍雄の短く激しい生涯 奥羽列藩を襲った幕末狂乱の嵐のなか、討薩ひとすじに奔走し倒れた雲井龍雄の生涯を、熱気のこもった筆致で描いた異色長篇歴史小説。
「時は今あめが下しる五月哉」明智光秀はその日の直前こう発句した。坐して滅ぶかあるいは叛くか。天正十年六月一日、亀山城を出た光秀の軍列は本能寺へと向かう。戦国武将のなかでもひときわ異様な謎に包まれたこの人物を描いた表題作他、郷里の歴史に材を借りた「上意改まる」など3篇を収録。異色歴史小説集。
この人こそ、生涯の真の同伴者かも知れない。家にはびこる不和の空気、翳りを見せ始めた商売、店を狙い撃ちにするかのような悪意ー心労が重なる新兵衛は、おこうとの危険な逢瀬に、この世の仄かな光を見いだす。しかし闇は更に広く、そして深かった。新兵衛の心の翳りを軸に、人生の陰影を描いた傑作長篇。