著者 : 蜂谷涼
理解ある舅・姑とともに、江戸の大店・仙石屋の暖簾を守るおしの。大地震の後、店を追われたもと夫が妾と娘を連れて戻ってきたからさあ大変。跡継ぎ息子の実母であることを盾に女主人の座を狙う妾のおみね、店を支えてきた誇りを胸に迎え撃つおしの。女同士、進退かけた分け目の戦が始まる。新感覚時代長編!
会津が降伏開城した夜、見上げた空には銀の月、無残に散った親友の美しい顔ー。壮絶な篭城戦を生き延びた会津藩砲術指南役の娘・山本八重は、薩長への突き上げるような憎しみに葛藤する。アメリカ帰りの牧師・新島襄と結婚した時、心に期したこととは。時代に挑戦し続けた女性の激動の一生と心模様を描ききった画期的小説。
美貌と気立てを見込まれ、江戸で指折りの献残屋に嫁いで十二年。夫が外で生ませた子を育てながらも懸命に店を守るおしのは、ある日またも夫の裏切りを知り、店を出る決意をするが…時の将軍の寵姫・お琴の方との交流、女主人としての迷いと決断を経て成長する女性を鮮やかに描く、文庫オリジナル時代小説。
明治維新でふぬけになった元旗本の亭主を見限り、自らテキ屋の世界に飛び込んだ女房の奮闘を描く表題作ほか、金髪の子を生み落とした明治政府高官の妻、政府お雇いの外国人に嫁いだ旧藩主の姫君など、激動の世を生き抜く女たちの心模様と身の処し方を細やかに綴る四編。女の哀しさと潔さが胸に迫る佳品集。
日露戦争前夜、一人暮らしの女医の診察室に夜ごと忍ぶ流れ者の男。いけないことと分かっていても、年下の男との甘美な情事に溺れてしまう女ー。美しく、そしてわがままに育った老舗呉服屋の養女は、やがて若い歌舞伎役者に惚れ込んで、ふしだらな逢瀬を重ねてゆく。その奔放な火遊びの結末は…。世情と男に翻弄される女心を、しっとりと艶やかな筆致で描いた時代小説の傑作。
染み抜き屋のつるのもとに、今日もわけありの染みが舞い込んでくる。様々な染みに宿る人生と向き合うつる。たまの息抜きは、長屋の住人たちが通う「ちぎり屋」の暖簾をくぐること。明治から大正に移り変わる北の街を舞台に、消せない過去を抱えた人々が織りなす人間模様。心に染み入る連作短篇全五篇。
商家から武家へ嫁いで楽をするはずだったのに、甲斐性なしの亭主殿のせいで、自ら的屋となって一家を支えた女。大名の姫君から一転、芸者として身をたてた女。髪結いの見習いから、お雇い外国人のもとに嫁入りした女…。激動の維新を乗り越え、幕末から明治を生きた女たちの奮闘を、情緒あふれる語り口で描いた全四篇。
日露戦争前夜、女医の診察室に忍ぶ流れ者の男。いけない事と分かっていても、年下の男との甘美な情事に溺れてしまう…。老舗呉服屋の養女は美しく我侭な娘に育つ。やがて若い歌舞伎役者に惚れこんで、ふしだらな逢瀬を重ねてゆく。その奔放な火遊びの結末は…。
消せない過去、日々の溜息が、布目にからみつく。北の街の夕暮れどきに、「ちぎり屋」と「染み抜き屋」の灯がともる。芸妓から成島屋の御内儀に納まった紫乃が持ち込んだ、男物の紋付羽織。結び雁金の紋所は、かつての恋が、紫乃の心に染みになって残っていると告げているように、つるには思えた。「こういう染みって、素人でも抜けるものですか」紫乃の言葉に、つるの胸の底で赤黒い炎が大きく揺れた。身の裡のほとぼりを鎮めるために、つるは一人、おもんの「ちぎり屋」の暖簾をくぐった-「徳壺」より。他の収録作「星月夜」「十色の虹」「花魁鴨」「蛍火」。