著者 : 谷村志穂
妊娠8ヶ月、それなのに入籍も同居も決められないままの美咲。ふと手にしたネガのフィルムから、思い出が鮮やかによみがえる。過去の愛、今の幸せ、その間に置き去りにされたのは、こころー。表題作「白い月」のほか、妊娠、出産という女のドラマを軸にした短篇全8編。からだの変化とともに変容してゆく愛のありようを細やかにつむぐ。
女は、冬の峠を越えて嫁いできた。華やかな函館から、昆布漁を営む南茅部へ。白雪のような美しさゆえ、周囲から孤立して生きてきた、薫。夫の邦一に身も心も包まれ、彼女は漁村に馴染んでゆく。だが、移ろう時の中で、荒ぶる夫とは対照的な義弟広次の、まっすぐな気持に惹かれてゆくのだったー。風雪に逆らうかのように、人びとは恋の炎にその身を焦がす。島清恋愛文学賞受賞作。
広次と薫の恋は、壮絶な結末を迎えた。それから十八年後、薫の愛したふたりの娘は、美しい姉妹へと成長していた。美輝は北海道大学に入学し、正義感の強い修介と出会う。函館で祖母と暮す美哉は、愛してはいけない男への片想いに苦しむ。母は許されぬ恋にすべてを懸けた。翳を胸に宿して成長した娘たちもまた、運命の男を探し求めるのだった。女三代の愛を描く大河小説、完結篇。島清恋愛文学賞受賞作。
深く深く海の底に潜ることで空っぽな心を満たそうとするアサコ。誰とでも寝る自堕落なキリ。南の島でフリーター生活をおくるふたりの女たちの毎日は、刺激的で自由で、でも本当は退屈に倦んで少しずつ死んでゆくよう。永遠に続くかのように思われた楽園の日々も、キリのエイズ騒動で終わりがやってくるー。表題作「シュークリアの海」その続編「島は沈まない」で描くアサコの再生への軌跡。
男から与えられる愛では満たされないことに気づいてしまった女、婚約者がいながら別の男に惹かれてゆく女、平穏な結婚生活の中でひと夏の記憶を辿る女…。ささやかだけど穏やかな幸福に包まれていても、どこか満たされない。心の奥底にひりつくような渇きを抱えて生きる女の日常に小さなさざ波をたてるのは、それもやはり“愛”。よせては返す波にも似て、果てなき海にまどう九つの愛のかたち。
「お前はすけべえな女だ。これしか能がないんだ」彼が言った。「あなたがこうした」私は答えた-。刹那の性愛を求めて夜の街を彷徨う女たち。満たされぬ心の叫びを、哀切に描き出す衝撃作。はかなく危うい愛の形。
あなたも、わたしも、ここにいる。なのに、なんて遠い男と女。求めても、体を重ねても、満たしきれない。禁じられるものは何もない。現代のさまざまな愛のかたちを描く短編小説集。男では満たされないことを知った女(「暗がりのローランサン美術館」)。婚約者とは別にプラトニックな愛を深めていく女(「最終公演、ワーグナー」)。平凡な結婚生活を送る女に突然よみがえるひと夏の記憶(「海に抱かれて」)。穏やかに見えても、心に、体に、生じるさざ波。果てなき愛の海をさまよう、男と女の九つの物語。