著者 : 野谷文昭
〈南〉を訪れる直前で中断された、ビクトル・エリセの名作『エル・スール』の原作。映画では描かれなかった後半部、物語のクライマックスが、いま明らかになる。父はなぜ沈黙のうちに閉じこもっていたのか。憧れの父の死を契機にセビーリャへ赴いた少女の見たものは……。映画製作当時、エリセの伴侶として彼に霊感を与えたアデライダ・ガルシア=モラレスによる、時代を超えた成長小説。2009年刊行の同内容の小説を新装版として刊行。 エル・スール 訳者解説
一九一六年、大英帝国の外交官であった男に死刑が執行された。その名はロジャー・ケイスメント。植民地主義の恐怖を暴いた英雄であり、アイルランド独立運動に身を捧げた殉教者である。同性愛者ゆえに長くその名は忘れられていたが、魂の闇を含めて、事実と虚構が織りなす物語のうちによみがえった。人間の条件を問う一大叙事詩。 ロジャー・ケイスメント関連地図 主要登場人物一覧 コンゴ アマゾン アイルランド エピローグ 謝 辞 訳者あとがき 参考文献
表題作のほか、「大佐に手紙は来ない」「この世で一番美しい水死者」「光は水に似る」など10篇を精選。世界文学最高峰を瑞々しい新訳で。
ヨーロッパの前衛、熱帯の自然、土着の魔術と神話が渾然一体となって蠱惑的な夢を紡ぎだす大地ラテンアメリカーー。ガルシア=マルケス、バルガス=リョサなどはもちろん、アストゥリアス、パスなどの先行世代、アジェンデ、アレナスなどのポスト・ブームの作家まで、20世紀後半に世界的ブームを巻き起こした南米文学の佳篇16篇。 1 多民族・多人種的状況/被征服・植民地の記憶 青い花束……………オクタビオ・パス チャック・モール……………カルロス・フエンテス ワリマイ……………イサベル・アジェンデ 大帽子男の伝説……………ミゲル・アンヘル・アストゥリアス トラスカラ人の罪……………エレーナ・ガーロ 日 蝕……………アウグスト・モンテローソ 2 暴力的風土・自然/マチスモ・フェミニズム/犯罪・殺人 流れのままに……………オラシオ・キロガ 決 闘……………マリオ・バルガス=リョサ フォルベス先生の幸福な夏……………ガブリエル・ガルシア=マルケス 物語の情熱……………アナ・リディア・ベガ 3 都市・疎外感/性・恐怖の結末 醜い二人の夜 ……………マリオ・ベネデッティ 快楽人形……………サルバドル・ガルメンディア 時 間……………アンドレス・オメロ・アタナシウ 4 夢・妄想・語り/SF・幻想 目をつぶって……………レイナルド・アレナス リナーレス夫妻に会うまで……………アルフレード・ブライス=エチェニケ 水の底で……………アドルフォ・ビオイ=カサーレス 解 説(野谷文昭) 初出一覧
饒舌に隠された沈黙の謎 死の床で神父の脳裏に去来する青春の日々、文学の師との出会い、動乱の祖国チリ、軍政下の記憶……作家の死の3年前に刊行された、後期を代表する中篇小説。 語り手はチリ人の神父セバスティアン・ウルティア=ラクロワ。カトリックの一派オプス・デイに属し、詩人で文芸評論家でもある神父は、信仰心に篤く、心穏やかな日々を送っていた。ある日、突然「老いた若者」がやってきて、サンティアゴの家のドアをノックするまでは…… 「老いた若者」はウルティア=ラクロワにしか見えない存在らしく、かつての神父の「沈黙」を盛んに責め立て、罵倒する。ウルティア=ラクロワは自らの言葉にも、沈黙にも責任があると応じ、残された力を振り絞って必死の弁明を試みる。 熱に浮かされた神父の、ときに幻覚も入り交じる独白を通じて、祖国チリが辿った苦難の歴史が浮かび上がる。実在した文芸評論家に想を得た人物フェアウェル、ノーベル賞詩人パブロ・ネルーダらが登場、クーデターを率いた独裁者ピノチェト将軍と対面する戦慄の場面もあり、二度と戻ることのなかった祖国チリに寄せる作家のアンビバレントな思いが読者の胸に突き刺さる。
リオで暮す妹ルシのもとへブエノスアイレスからやってきた姉ニディア。片やロマンチスト、片やリアリストの二人は隣りの女性やハンサムなガードマンをめぐって噂話に花を咲かせる。だが、妹は息子の転勤にともないスイスへ移住、南国を偲びつつその地で病死する。周囲のはからいで妹の死を知らされない姉は、リオで待ち続け、妹に宛てて手紙を送り続ける。ところが、彼女は信頼していたガードマンに裏切られ、傷心のままブエノスアイレスに戻るのだが…。
「触ってもいい?こんな風に触ってもいい?こうしても?あたしに撫でられて、気持悪くない?よかったら、あたしに好きなことしていいわよ…」ブエノスアイレスの刑務所の中で生まれた、テロリストとホモセクシュアルの、妖しいまでに美しい愛。アルゼンチンの作家、マヌエル・ブイグの野心作。映画化では、ウィリアム・ハートが、その名演技で〈アカデミー主演男優賞〉を受賞して、世界の話題をさらったものである。