著者 : 金井美恵子
『スタア誕生』公開にちなみ、地方都市の映画館でニューフェース審査会が開かれる。揺れながらカーテンが引かれ、シャンデリアは虹色に輝き、まばゆい光のスクリーンで、私たちの“金魚の娘”ははなやかに泳ぎまわるだろうか…すずらんの香水、首筋に感じる風、数多の映画の情景、幾度となく紡ぎ直される物語。’50年代の記憶を精緻に編みこんだ切なく甘い最新長編小説。
常に密やかに、優雅に、挑戦し続けてきた作家の言葉が、無数の映像や小説、夢や記憶の断片と共に繊細に紡がれ、誰も読んだことのない、前代未聞の物語として誕生した!二つの批評的エッセイに縁取られ、六つのフォト・コラージュに彩られた小説群。
過去と現在。記憶と現実。存在と不在。自己と他者。周到に仕組まれた言葉の奔流が、確かと信じられている輪郭をことごとく溶かし、境界を混じりあわせ、めまいにも似た乱反射を読む者に引き起こす。「読むことが、私の生きている証し」老練な読者たる著者が、最初期二作品を含む初期作品群から、現在の眼で選んだ短篇集、第三弾。
言葉の町を歩き、言葉のシーツにくるまれ、言葉の包帯を巻いて、あるいは言葉の肉料理を食べ、そして言葉の性交を行うー言葉だけで出来た建物の中で、肉体、時間、空間、世界、あらゆるものを生成する無数の言葉と戯れる陶酔。衝突を繰りかえす豊饒なイメージを道しるべに、著者自らが選んだ短篇集、第二弾。快楽の全18篇。
一筆ずつ塗り重ねられる精緻な絵画のように、あるいは一針ずつ施される絢爛たる刺繍のようにー一語一語選び抜かれた言葉は、思わぬつながりを持つ次の言葉を連れてきて、夢中でそれらを追ううちに思いもよらない地平に連れ去られていく。時空間も記憶も等質な粒子となって混じり合い、拡散し、迷宮のような読書体験をもたらす、著者初の自選短篇集。
優雅なる脱線、冴えわたる悪口。趣味は手紙を書くこと。「手紙の吸血鬼」と化したアキコさんがお勝手の話題を書きに書きまくった手紙、その数50通。名手の文章が存分に味わえる、贅沢な書簡体小説。待望の長篇。金井美恵子ならではの小説的企みや、映画や小説の話題も満載。絵葉書2点の豪華付録付き!
物語とドレスと映画と記憶と夢に祝福された言葉の宇宙。“読む快楽・書く快楽”に充ちた前代未聞の小説。
桃子は大学に入りたての19歳。小説家のおばさんのマンションに同居中。口うるさいおふくろや、同性の愛人と暮らすキザな父親にもめげず、親友の花子とあたしの長閑な「少女小説」は、幸福な結末を迎えるか。
柔らかい土をふんで、あの人はやってきて、柔らかい肌に、ナイフが突き刺さるー逃げ去る女と裏切られた男の、狂おしい愛の物語。ジャン・ルノワールの映画『牝犬』、それをリメイクしたフリッツ・ラングの『スカーレット・ストリート』をはじめ、さまざまな物語と記憶の引用が織りなす至福のエクリチュール。巻末に解題著者インタビューを掲載。
「それは“岸辺のない海”と名づけられるだろう。永遠に欠如した永遠に完成することのない小説を、彼は書きはじめるだろう」-孤独と絶望の中で、“彼”=“ぼく”は書き続け、語り続ける。十九歳で鮮烈なデビューをし問題作を発表しつづけてきた、著者の原点ともいえる初長篇小説を完全復元。併せて「岸辺のない海・補遺」も収録。
目白のアパート「紅梅荘」ふたたび!桃子、30歳。定職、ボーイフレンドなし。親友・花子は荻窪の実家のパテ屋から目白に戻り、小説家のおばさんは相変わらず辛辣。桃子の母親は、なんと恋愛、再婚!謎めいた隣人・岡崎さんは「ね、ね、おもしろいでしょ」が口癖…傑作『小春日和(インデイアン・サマー)』から10余年を経て語られる「彼女(たち)」の物語。
感覚的、幻想的イメージ、風刺と暗喩の交錯する詩的文体。時間と空間を否定した特異の作品世界を築き、「桃の園」に描かれる記憶の不明をはじめ、作品の底に澱のように淀む家族の影は現実の不安を描出する。表題作「ピクニック」のほか、「競争者」「窓」「木の箱」「月」「既視の街」「くずれる水」「豚」「鎮静削」「家族アルバム」「あかるい部屋のなかで」の十二篇を収める短篇集。
『わたしはFをどのように愛しているのか?』との脅えを透明な日常風景の中に乾いた感覚的な文体で描いて、太宰治賞次席となった十九歳時の初の小説「愛の生活」。幻想的な窮極の愛というべき「森のメリュジーヌ」。書くことの自意識を書く「プラトン的恋愛」(泉鏡花文学賞)。今日の人間存在の不安と表現することの困難を逆転させて細やかで多彩な空間を織り成す金井美恵子の秀作十篇。
女流作家はなかなか書かない、おふくろはうるさいし、おやじは男と同棲してる。あたしの生活はネコと自転車と料理と映画、そして昼寝。小さな事件が名を連ね、錯綜とした日常性の中、小説は書かれ、お話は続く…。