著者 : 金正勲
いま、韓国で映画『ソウルの春』(キム・ソンス監督、出演ファン・ジョンミン等)が大人気だ。『パラサイト 半地下の家族』などを上回る1,300万人以上の観客動員を記録し、日本での公開も決定した(8月23日公開)。映画は、1979年12月に全斗煥が中心となって起こして、韓国民主主義を揺るがした、ある事件を基に一部フィクションを交え描かれている。事件は、1979年10月の独裁者・朴正熙の暗殺と民主化を期待した人々の思いとは裏腹に全斗煥がおこした軍クーデター。全斗煥は、その後、1980年5月の光州民主化運動を暴力的に鎮圧した人物でもあった。この軍クーデターを描いた映画は、光州事件に連なる、韓国で経験されてきた政治的記憶を、深く辿ってゆくことができるものと言えそうだ。本書は、光州事件以降、軍部独裁政権下で、弾圧を覚悟して、信念と思想を貫いて新聞や雑誌に発表した著名な詩人たちの抵抗詩を編んだものである。韓国民主化のために詩で闘った1980〜86年の著名な詩人たちの作品……文益煥、白基琓、申庚林、朴労解、金南柱、趙泰一、高炯烈、金準泰……日本でも読まれている著名な詩人や思想家たちが、光州の悲劇を描く。日韓対訳・同時刊行! ◉光州事件=長期独裁を続けた朴正煕大統領が射殺され、全国民が民主化を求める「ソウルの春」という雰囲気が訪れた。しかし、再び軍人出身の全斗煥がクーデターを起こしたことで、光州市民が中心になって「民主政府樹立」、「軍部勢力退陣」、「戒厳令撤廃」などを要求し、抗議運動を広く展開した民主化運動が光州事件である。全斗煥の指揮下、軍による武力行使で学生や一般市民に多数の死者と負傷者が出ている。この光州民主化運動をきっかけとして民主化を求める雰囲気と要求が高まり、全斗煥とともにクーデターを起こした盧泰愚大統領候補は、1987年6月29日に民主化宣言を行うこととなった。
苛酷な日本の植民地支配に抵抗した詩人たち。学生運動のなかから生まれた若き詩人、「満洲」地域で生を受け、二重のディアスポラとして朝鮮語の叙情性を極めた詩人……。その文学の軌跡と現代への影響を韓国・北朝鮮・中国・日本の文学者・研究者たちが描く。 まえがき 第1部 学生運動と抵抗詩人 朝鮮南部の抵抗作家、李石城を読むーー発掘の意味をこめて[金正勲] はじめに 1 李石城は何者か 2 発掘された詩から映し出されるもの 3 日本の思想家から朝鮮の思想家へ 4 『堤防工事』のテーマと意義 おわりに 『堤防工事』[李石城(金正勲 訳)] 朝鮮植民地期のアナキズム独立運動[亀田博] 鄭瑀采の活動と詩篇に表れる抵抗精神[金正勲] はじめに 1 鄭瑀采の成長過程と文壇デビュー 2 「醒進會」活動と投獄 3 凄絶な生きざまの現場と自我省察の歌 4 詩文にみられる抵抗精神 おわりに 歴史的人物、朴準埰の書き残した詩篇に関する考察ーー早稲田大学留学時代の作品を中心に[金正勲] はじめに 1 詩ノートの実物 2 家族愛と故郷愛を描いた詩 3 早稲田大学留学時代の詩 4 抗日的抵抗詩 おわりに 朴準埰の発掘詩紹介[金正勲 訳] 第2部 抵抗から独立へ 尹東柱ーー詩による抵抗の充実と苦悩[愛沢革] 1 尹東柱の詩を新しい眼で読みなおすことが問われている 2 尹東柱は情感偏重の抒情詩人ではないーー金時鐘による尹東柱批評の意味 3 尹東柱と宋夢奎 李相和ーー抵抗と復活の世界性[佐川亜紀] 1 代表作「奪われた野にも春は来るのか」の生命表現ーー女性表象をめぐって 2 世界的な問い 3 虐げられた人々への共感 4 作品「詩人に」--創造への呼びかけ 植民地時代の朝鮮における『国民文学』[渡邊澄子] 二重のディアスポラ、尹東柱[崔一] 1 尹東柱の発見 2 「満州」という空間と韓民族アイデンティティ 3 「満州」の不在と抽象的な故郷 4 「二重ディアスポラ」の漂流する故郷 5 「国民」という記標を持つ者と持っていない者 尹東柱の児童詩とその文学史的意義[金萬石] 1 尹東柱の児童詩学習と創作 2 尹東柱の追求した児童詩の形態 3 尹東柱児童詩の思想・美学的価値 4 結論 李陸史の文筆活動と詩[ハン・ジュンモ] 歴史における詩的参与[文炳蘭] 1 詩の機能 2 歴史と詩人 3 真実の詩と虚偽の詩 第3部 付録・関連短文 李石城の新発見日本語詩稿に出会ってーーその驚きと感動の言葉[金正勲] 雪の降る凍土にも花は咲くかーー出来損ない息子の想父曲[李明翰] 李石城ーー抵抗詩から抵抗小説へ[金正勲] 朴準埰の発掘詩ーー「KBSラジオインタビュー(光州放送局)」[金正勲] 鄭瑀采の生涯と文学[金正勲] 朝鮮近代文学のパイオニア、趙明熙[金正勲] あとがき
不条理な時代にあらがう悲憤のさけび、希望の詩。彼らは日本で何を感じ、何を見たのか。日本留学経験のある朝鮮の代表的な詩人、尹東柱、沈熏、李相和、李陸史、韓龍雲、趙明煕6人の代表作を収録したアンソロジー。ハングル原文も収載したK文学の原点。 序にかえて 尹東柱 自画像/恐ろしい時間/夜明けが来る時まで /十字架/序詩/もう一つの故郷 /風が吹いて/道/たやすく書かれた詩/懺悔錄 沈熏 その日が来れば/春の序曲/玄海灘/さよなら、わがソウルよ/朝鮮は酒を飲ませる/山に登れ/故郷が懐かしくても/草地に横たわって/初雪/痛哭の中で 李相和 奪われた野にも春は来るのか/詩人に/朝鮮病/慟哭/緋音─緋音の叙事/先駆者の歌/独白/逆天/雨あがりの朝/嵐を待つ心 李陸史 青ぶどう/絶頂/広野/花/喬木/湖/一つの星を歌おう/鴉片/失われた故郷/子夜曲 韓龍雲 山村の夏の夕暮れ/ニムの沈黙/服従/道が塞がれて/分からない/渡し舟と行人/讃頌/愛する理由/忘れよう/いっそのこと 趙明煕 成熟の祝福/火の雨を降らせなさい/友よ/春の芝生の上で/わたしの故郷が/赤ん坊/因縁/市街の人々/無題/朝 詩人の生涯と活動