著者 : 阿部昭
病死した母親の後を追う少年の姿を端正な文体で描いた表題作ほか、デビュー作「子供部屋」、教科書の定番作品「あこがれ」「自転車」など全十四編を収める。短篇小説の名手による〈少年〉を主題としたオリジナル・アンソロジー。 【目次】 子供部屋/幼年詩篇(1馬糞ひろい 2父の教え 3あこがれ)/ 子供の墓/自転車/言葉/天使が見たもの/海の子/家族の一員/ 三月の風/みぞれふる空/水にうつる雲/あの夏あの海 〈巻末エッセイ〉父の視線(沢木耕太郎)
阿部昭没後三十年。「内向の世代」の代表的作家であり、私小説の書き手であり、短編小説の名手でもある阿部昭の傑作短編選集。人生の一部分を切り取ったような珠玉の短編小説たちから、わたしたちの「人生の一日」が発見できるはずです。簡潔で平明な文章ながら、鋭い観察眼で人々の生活を表した名短編集です。
淡々と湘南暮らしの日々を綴った自伝的作品 母の死や息子の受験など煩雑な現実に振りまわされながらも、“もっと単純に生きられたら”と、心ひそかに願う中年の男。 心臓を患った彼は、年寄りの医者にもっと海でも眺めていろと通告され、そんな偏屈さに妙なシンパシーを抱く。「単純」とははたして何かーー。 期間にして2年半の日々を、静かに、淡々と綴った阿部昭の自伝的作品であり、妻への思い、3人の息子それぞれに対する複雑な思いなどがユーモアと深いペーソスで綴られている。
一九七〇年、文芸雑誌「文芸」は二度にわたり、当時たびたび芥川賞候補に挙がっていた若手五人を集め、座談会を開く。翌年小田切秀雄に「内向の世代」と呼ばれる彼らの文学は、現代の作家たちにも大きな影響を与えることになる。本書は座談会出席者の一人黒井千次氏が、初期作品の中から瑞々しい魅力を放つ小説を精選した稀有なアンソロジー。
鋭く周密な観察で幼年期を綴る「千年」、漠然として白く燃え上り落着の悪い記憶の断片に纏る不安、恐怖・なつかしさを語る「桃」。心弱い父が美しく描かれ父と子の屈折した心情溢れる「父と子の夜」など、仄暗く深い記憶の彼方の幼年時代を、瑞々しく精緻に描出する阿部昭の秀作群。毎日出版文化賞受賞短篇集『千年』に「あの夏」「贈り物」を併録。
日常の深底に澱む不透明で苛酷な世界。人生の悲哀を呑みこんだ苦いユーモアと豊かな情感とに支えられる阿部昭の小説空間。「自転車」「猫」「窓」「散歩」「手紙」「童話」「道」ほかの短篇で繋ぐ『無縁の生活』、「人生の一日」「水のほとりで」「天使がみたもの」などを収める芸術選奨新人賞受賞『人生の一日』。二つの作品集から二十篇を収録。
父をこよなく愛した幼、少年の日々。敗戦により海軍軍人であった父の失職の帰還。失意と家庭の不幸を耐えた父のストイシズム。人間の魂の高貴を平明、粉飾なき文体で描く秀作群。惜しまれて急逝した不朽の文学者魂・阿部昭の世界。