著者 : 阿部知二
「私にとっては、霧島家の貧寒で乱雑な空気だけが身を置くべき場所となっていた。泥水の中でなければ落ちついて棲むことのできないある種の魚たちのように…」大学生の“私”は、学校にも学友ともなじめず、下宿していた叔父一家ともしっくりいかずに、貸間と貼り紙のあった霧島家の6畳間を借りることになった。ところがその主人・嘉門は自分勝手な暴れ者で、幼いふたりの子を抱えたクリスチャンの妻・まつ子を泣かせてばかり。しかし“私”はなぜか嘉門を嫌いになれずー。原節子出演で映画化もされたベストセラー作品。旧制高校の同窓会を通じて、戦後の現実をシニカルに描いた「アルト・ハイデルベルヒ」を併録。
十八世紀末イギリスの田舎町。ベネット家の五人の子は女ばかりで、母親は娘に良縁を探すべく奮闘中。舞踏会で、長女ジェインは青年ビングリーと惹かれ合い、次女エリザベスも資産家ダーシーと出逢う。彼を高慢だとみなしたエリザベスだが、それは偏見に過ぎぬのか?世界文学屈指の名ラブストーリー。
ロンドン郊外の田舎町に暮らすベネット家には年頃の五人姉妹がいた。ある日の舞踏会で長女ジェインは近所に越して来た青年ビングリーと互いに惹かれ合う。一方、次女エリザベスは、資産家の美男ダーシーに出会う。彼の態度は高慢だったがそう見えたのはエリザベスの偏見にすぎぬのか。
第一次大戦下、フランスの前線部隊に起った反乱をめぐる兵士・市民の物語である。12人のふしぎな兵士を従えた一伍長の受難をキリストの受難に二重写しにしつつ、「生きる苦悩と救い」という人類永遠のテーマを、戦争という人間悪の集約ともいうべき場で執拗に追及したフォークナー破格の思想小説。
第二次世界大戦の衝撃を一つの決定的な契機として、作者は無意味な大量殺人としての「戦争」を現代の世界状況および構造そのものを深く象徴するものとして捉え、そのメカニズムを徹底的にあばき、その根源の地点から人間存在の意味と可能性を未来に向かって把捉しなおそうとする雄勁な文学的企てをここに結実させた。
子供時代に胸躍らせたジム少年の冒険談も、あらためて読み直してみると、シルヴァー船長以下、一癖も二癖もある様々な登場人物に、『ジーキル博士とハイド氏』の作者スティーヴンスン(1850-94)の人間観察の眼が感じられ、物語に一段と奥行きと魅力が増してくる。宝探しという永遠のロマンに、さあ新たな船出をしよう。