著者 : 難波利三
吉本興業創立者・吉本せい。その弟・林正之助は、姉を支えて大正・昭和の時代にお笑いを大きなビジネスへと築きあげた。才能ある芸人を発見し、興行界のややこしいトラブルは体を張ってでも解決した。その辣腕ぶりは業界に知れ渡り、ライオンの異名で呼ばれた。さまざまな芸人との出会いや、驚くべき芸界秘話などを満載!「小説吉本興業」を改題文庫化
四国宇和島の桜祭りに呼ばれた大阪の漫才コンビの一人石原弘司は、仮設舞台で公演中、突然天井から落ちてきた丸太の直撃を受け死亡した。通夜の席上、弘司の祖父は「まだお許しにならんのか」と奇怪な言葉を口走って意識不明に陥った。相棒の森川保夫は、謎を解くべく、弘司の妹を連れて再び宇和島へ。が、そこで二人を待ち受けていたものは…?
正義感と人情に溢れる熱血どてらい刑事・犬伏大太。故あって警察を辞め、今は気楽なフリーターだ。特異な“小便健康法”で体調もすこぶる良い。ある日、彼の住んでいるマンションの隣人・高村雲之進の依頼で、家出娘を捜すことになった。雲之進は、よく当ると評判の占師。家出人や落し物の行方を占っている。彼の占いを証明するため、大太が実地調査にのりだしたのだ。相棒は雲之進の孫娘・亜美。おっさんくさい大太を、初めは毛嫌いする亜美だったが、コンビを組むうちに…心あたたまるペーソスの世界。
大東宣伝企画制作部課長の青崎常弘は、大阪本社から支社長として乗り込んできたやり手、杉原の影響でゴルフを始めた。練習を重ね、自信を持って会社のコンペに参加した青崎だったが、失敗の連続で惨めなデビュー戦となった。その上、パーティでも大失態を犯し、杉原支社長の怒りをかってしまった。ゴルフを始めてから仕事もうまく行かず、後から始めた女房にも負けて、性格まで卑屈になってしまった青崎。ゴルフをやめようかと悩む青崎は、練習場で自分より下手くそな飯合に出会うが…。中堅宣伝マンに突然振りかかったゴルフ珍騒動。たかがゴルフ、されどゴルフ!悲喜こもごも、哀歓あふれる新サラリーマン小説秀作。書下ろし渾身作。
大人の玩具の新製品開発に没頭する初老の男、その実験台になってやる30過ぎた踊り子、出稼ぎに来てバーの女と失踪した父親、親元に子供を預け、パートで貯めた大金を芝居一座の花形に入れ揚げた母親。通天閣を見上げる猥雑の街では、ネオンが溢れ、安アパートがひしめき、騒音と塵芥の渦の底で、人生の長い影を引きずる男と女が、陽だまりに群れている…。ほろ苦くも物哀しい男と女の物語7篇。
キャディ泣かせの手間のかかるホールだった。「ぼくが合図してから打ってください」と4人に言って、ぼくは走った。旗が見え、グリーン全体が見通せる地点まで駆け登ったとき、ぼくは訝った。思わず目を見張った。旗のそばに大の字型で人が倒れている。手足を広げた人間だった。うつ伏せで、泳ぐような格好になっていた。その直前、次の17番ホールへ向かう通路の茂みのかげで、ぼくは動くものを目撃した。ゴルフを利用した殺人事件!ぼくは胸をたかならせた。ゴルフにこっているサラリーマン殿、この小説には〈哀しき身分〉が描かれている。あなたへの直木賞作家が贈る〈警告書〉だ。
桜の怪?城山公園でのミステリー。大阪の若手漫才“ヒマラヤ探険隊”の森川保夫のコンビ石原弘司は、四国宇和島での仮設舞台で公演中、突然天井から落ちて来た丸太のせいで死亡した。過失?意図的殺人?-どちらも当てはまりそうもない。ところが通夜にやって来た被害者の祖父が棺を見据えて意外なことを言い出したのだ。「まだ、お許しにならんのか」そして「お前らのお父さんもお母さんも、あそこで死んだ。行ったらあかんのや、行ったら」。そのまま意識不明に陥ってしまった老人の謎を解くべく保夫は弘司の妹と再び宇和島を訪れる。そしてその2人にまた襲いかかったのは…。勇壮な和霊神社の祭礼に絡み合う怨念の行方を追う著者独自の浪華ミステリー傑作長編。
大阪は通天閣下の路地裏通り。バーバー中田の友夫、ガードマンの順吉、喫茶ミツコのママ光子の3人は妙に気が合い、日に一度は顔を合わせないと気がすまぬという間柄。涙もろくておっちょこちょいのこの3人組が、町内にまきおこるさまざまな事件に鳩首協議、他人の不幸は放ってはおけぬと力を出しあい、解決にあたる。ちょっぴり楽しく、ちょっぴり哀しい下町人情ドラマ。名手・難波利三の独壇場。
〈ノックをすると、入れ、と言う声がした。鍵は開いていた。足を踏み入れたとたん、谷口は棒立ちになった。全裸のまま、二人は布団の上で絡み合っている。電気は点けっ放しだった〉この時、谷口の胸に殺意が芽生えた。遠く、佐渡に打ち寄せる潮騒が聞こえていた…(「哭き鬼太鼓」より)。佐渡、隠岐、南紀・大島など、伝説に彩られた島々を舞台に繰り広げられる男と女の愛憎。そして殺人。現地を取材して旅情豊かに描く傑作サスペンス推理!
大阪は通天閣の下、しがない芸人の集り住む一郭があった。時代の波にとり残され、二度と陽の目を見ることのあろうとも思われなかった82歳と55歳の漫才コンビに、一度だけ華やかなテレビのスポットが当てられる。身を寄せあって生きていく善意の人々の哀歓をしみじみと描いた第91回直木賞受賞作。